「あら、横山係長、彼女がうわさの“まゆちゃん”ですよ?」
後ろで黙って見ていたのであろう青木さんが横山さんに意味ありげな視線を送っている。
「ほほぅ。」
横山さんはあたしたちの横を通り過ぎていたのに、わざわざ戻ってきてあたしの顔を覗き込もうとした。それを見てお兄ちゃんが「見せませんよ」とあたしを背中側に隠す。
警察官も平和な職場ではこんなに和やかなんだ。なんて思ったけど、いつまでもこんな所で騒いでたら迷惑だろう。
「あ、あたし、もう帰るね。はい、これでいいんだよね?」
鞄から頼まれた新品のワイシャツを取り出してお兄ちゃんに押しつけ、「お騒がせしました」と横山さんと青木さんに頭を下げる。
「まゆ、ありがとな。助かったよ。」
あたしに並んで歩き出そうとするお兄ちゃんを制止して、お兄ちゃんを見上げた。
「うん、役に立てて良かった。でも・・・」
「なに?」
「・・・いろいろ言いたいことはあるけど、今はいいや。とりあえず、その格好で外に出ない方がいいと思うよ?」
あ、とお兄ちゃんは血塗れのワイシャツを見て苦笑いを浮かべた。
お兄ちゃんが笑っていることにひどく安心した。どうしてこんなことになっているのかお兄ちゃんは教えてくれなかったし、あたしには知りようもないけど、とにかくお兄ちゃんが無事でよかった。
「・・・だな。まゆ、気をつけて帰れよ。」
あたしは頷いたあと、警察官のお兄ちゃんにも芝居じみたお辞儀をして署を出た。

