うつらふお姫様とちひさき約束


お兄ちゃんの職業が判明したことにも驚いたけど・・・その姿を見てもっと驚いた。

「やだっ!どうしたのそれっ・・・!!!」

お兄ちゃんのワイシャツは所々赤黒く染まっていて、あたしは思わず駆け寄って掴んだ両腕を揺さぶった。

「どこっ?どこケガしたのっ?」

どんどん血の気が引いていくのがわかる。
やだやだやだやだ。
こんなに血が出てたら結構な大怪我だ。

「まゆ、落ち着いて。大丈夫だよ、どこもケガしてない・・・あ、ちょっとここ擦り剥いたか。」

あたしにされるがまま揺さぶられていたお兄ちゃんが、思い出したかのように左の頬に手を当て苦笑いを浮かべた。
長い指が触れた先には確かに擦り傷があって、薄く血が滲んでいる。

「・・・ほんとに?大丈夫なの?だってこれ、血・・・でしょ・・・?」

お兄ちゃんのワイシャツを掴む手が震えていた。

「大丈夫。びっくりさせてごめんな?これ、オレの血じゃないから大丈夫だよ。」

大きな手があたしの頭をゆっくり撫で、もう片方の手で震えるあたしの手を握る。

「よ・・・よかったぁ・・・」

ホッとしたらポロリと涙がこぼれた。
頭を撫でていた手が顔まで降りてきて、親指でそっと涙を拭ってくれる。

「あーぁ、相澤ぁ、こんな人目のあるところで一般市民の女の子泣かすなよぉ。っていうか、そんな格好でフラフラすんなって。」

その声にハッとして、あたしはお兄ちゃんから離れようとした。
けど、お兄ちゃんはあたしの手を放してはくれず・・・

「すみません、係長。」

と軽く頭を下げた。
係長と呼ばれた人もニヤリと笑っていて、お兄ちゃんを本気で怒っているわけではなさそうだ。