いつの間にか季節は師走。

どこもかしこもクリスマスモードで、街中キラキラしている。

ありがたいことに、お守りはお守りのまま使われることなく今に至っているけど、連絡先を交換してから、お兄ちゃんとは時々メールのやり取りをするようになった。
遊びに行く前の他にも、時々。
返事はいつも素っ気ないけど。





「まゆ、これ、ありがとねー。」

授業終わりでざわつく講義室、隣に座っていた本田さおりがファイルを差し出す。
レポート用にあたしが作った資料だ。

「もう終わったの?さおにしちゃ早いね。」

笑いながら、受け取ったそれも一緒に鞄にしまう。

「まさかー。コピー取った。」

あはは、と2人で顔を見合わせ笑う。

さおりには何も言っていない。
何もなかったのにさおりに伝えて、余計な波風立てる必要はないと思ったから。
あのあと、何度か新田さんにも会った。
時々その視線が気になることがあったけど、いつもさおりと一緒だったからか、お兄ちゃんが心配するようなことには至っていない。

「慎ちゃんがよくできてるって感心してたよ、それ。」

こんな風に不意に新田さんの名前が出てくると、ちょっとドキッとするけど。
曖昧な笑顔でそう?と返しておく。

「今日はお昼、何食べる?」

問われて、どうしようかねぇとカフェテリアのメニューを思い浮かべる。
あ、正門前のカフェもいいかも・・・

♪♪♪♪♪♪♪♪♪

鞄の底から着信音が聞こえる。マナーモードにしておくの忘れていたようだ。
講義が終わってて良かったと思いながら引っ張り出したスマホの画面には“お兄ちゃん”の文字。

「!!!」

驚いて鳴り止まないスマホをまじまじと見つめてしまう。

「電話?出ないの?」

さおりはそんなあたしを不思議そうに見つめる。

「あ、うん、ごめん、出ますっ・・・もしもし?」

あたふたと通話ボタンを押して耳に当てる。

『あ、まゆ?今、大丈夫か?』

本当にお兄ちゃんだ・・・お兄ちゃんからの電話なんて、初めてかも。

「うん、今、お昼休みだし。」

『そっか、よかった。まゆさぁ、・・・1つ頼まれてくれない?』