「なに?」
呼ばれて振り返ると、お兄ちゃんは鍵を一本差し出した。
訳が分からない、と首を傾げると、お兄ちゃんはあたしの手にそれを握らせた。
「お守り。オレがいなくても、隠れられるように。」
「え?いい、の?」
「オレがやるって言ってるんだからいいんだよ。」
あたしから目を逸らすお兄ちゃんの顔はなんだか赤い?
何はともあれ、これは・・・すごく効きそうなお守りじゃないか・・・
「・・・お兄ちゃん、ありがとう。」
「おぅ。」
車を降りると、助手席側の窓が開いた。
「またな。」
片手を上げるお兄ちゃんにあたしも手を振って、玄関に向かう。
家のドアを開ける前に振り返って、もう一度お兄ちゃんに手を振る。
お兄ちゃんはあたしが家に入らないと車を発進させない。いつもそう。
だから、あたしは「ただいま」と声を掛けながら家に入る。
ドアを閉めると、微かにエンジン音が聞こえた。
あー、お兄ちゃん、本当に家に寄らないで帰ったな・・・
そんなことを思いながらも、手中の鍵を確かめるように握りしめる。
嬉しくて頬が緩む。
勘違いでも、思い込みでもいい、今だけはお兄ちゃんの“特別”になれている?
スカートの染みも、連絡先を知らなかったことも、もうどうでもいい。
あたしはますますお兄ちゃんへの想いを強くした。