うつらふお姫様とちひさき約束


「まゆ?」

呼ばれて振り返った先に、コンビニのビニール袋をぶら下げたお兄ちゃん。

「お兄ちゃんっ」

そう呼び返したら、新田さんの手が離れた。

「どうした?」

あたしのそばまで歩いてきたお兄ちゃんは、そっと肩を抱いてあたしを新田さんからさりげなく引き離す。

「・・・加藤さん、お兄さん、なの?」

新田さんはさっきとは違ういつも通りの笑顔でこちらを見た。
ひとの良さそうなその笑顔も、隠し持つ本音の一端を知ってしまった今では空々しく感じる。

「あ、兄というか・・・」

「真悠莉が何かご迷惑をお掛けしましたか?」

あたしが答えきらないうちに、お兄ちゃんが新田さんに声を掛ける。
お兄ちゃんの目がいつもより鋭い。

「いえ、加藤さんが、ではなく、オレが加藤さんに迷惑を掛けてしまって。」

新田さんの視線があたしのスカートを捉え、お兄ちゃんはその視線を追ってあたしのスカートを見て頷く。

「わざわざ申し訳ありません。でも、もう大丈夫ですから。私が責任持って家まで連れて帰りますよ。」

「・・・そうですか。よろしくお願いします。加藤さん、ごめんね。」

あっさり引き下がる新田さんにホッとしつつも、ちらりとあたしを捕らえる視線に意味深なものを感じる。
失礼します、と頭を下げて大学への道を戻って行く新田さんを見送ると、ふぅ、と息をついて、お兄ちゃんはあたしの手を取る。

「とりあえず部屋に行くぞ。」

あたしは頷いてお兄ちゃんのあとをついて行く。

いつもより強い力で手を引かれ、心なしか歩くスピードも速い。

あぁ、お兄ちゃんの手、あったかい。
そう思えるほどあたしの手は冷え切っていた。