うつらふお姫様とちひさき約束


今日の鞄が大きめでよかった。
なんとなく染みを隠しながら、あたしは足早にお兄ちゃんの部屋へ向かった。
時折後ろを振り返りながら・・・。



が。

お兄ちゃんは留守らしく、何度インターフォンを押しても応答はない。

「・・・・・・うそぉ・・・」

あたしは玄関の前で項垂れた。

10分ほど待ってみたけど、帰ってくる気配無し。

今日は休みだと思ったんだけどな・・・でも、休みならお兄ちゃんだって出掛けるよな・・・

仕方ない、と覚悟を決めて家に帰ることにする。

もうこのスカートは着られないだろうなぁ。
乾ききった染みの部分を触ると、そこだけ肌触りが違う。
膝丈のフレアスカート。淡いベージュの優しい感じに一目惚れしたんだけど。

マンションのエントランスを出て、再び鞄で染みを隠すように歩き出す。
大きな通りに出たところであたしは後ろから不意に肩を掴まれた。

「っ!」

あまりに突然なことに驚いて、声も出せずに振り向くと、そこにはさっき別れた新田さんが立っていた。

「知り合いの人、留守だったの?」

「え・・・あの・・・?」

あたしの戸惑う表情を呆れたように笑い、

「だからウチに来ればいいのに。ね、ウチに行こう?さおりの着替え、貸すから。」

そう言いながらあたしの腕を引いて歩き出す。

「いえ、大丈夫です。このまま、帰り、ます、からっ」

足を止め、腕を引き抜こうとするが、新田さんは掴む手に更に力を入れた。

「大丈夫だって。まだ、何もしないよ?」

新田さんは笑顔だけど、目が笑っていない。「さぁ、」と再び歩き出そうとする。

いつもと違う新田さんの態度に、得体の知れない恐怖が足下から這い上がってくるのを感じた。

心拍数が急激に上がる。

「はっ・・・はなっ・・・して・・・」

怖いっ。

ギュッと目を瞑り、必死に抵抗して新田さんから逃れようと身体を引くが、新田さんの手はますますあたしの腕に食い込んでいく。

そのとき。

聞き慣れた声があたしを呼んだ。