あたしはグラスを洗いながら、さっきのお兄ちゃんの目を思い出していた。
あんな目、初めてかも。
ドキドキが治まらない。

距離を置いた3年間。
あれは想像以上に長かった。
いつも隣にいてくれた人が急にいなくなって、あたしは存分に思い知らされたのだ。

あたしにとって、お兄ちゃんがどれだけ大事な人だったのか。

そして。

少し変わったお兄ちゃんへの想い。
それは、兄妹としてじゃない、想い。

でも、それはお兄ちゃんに知られてはいけない想い。

お兄ちゃんもあたしを好きになってくれたらいいけど。
困らせて、もう会えなくなってしまったら、と思うとこの気持ちを伝えるのは怖い。

この気持ちを伝えられなくても、お兄ちゃんのそばにいられなくなるよりはいい。
だから、あたしは“妹”でいい。

濡れた手を拭いて壁の時計を見上げたあたしの様子に、お兄ちゃんは立ち上がって車の鍵を手にした。

「行くか?」

あたしも頷いて荷物を手に取る。






いつものように家の前まで送ってもらって、「ありがとう」と車を降りる。
お兄ちゃんは「どういたしまして」と微笑む。
あたしが家の中に入るのを見届けて、お兄ちゃんは帰っていく。

次の約束はしない。

だって、いつ行ってもお兄ちゃんはあたしを追い返したりしないから。