洋子おばさんから、お兄ちゃんの就職先はすぐ近くだって聞いていた。
じゃぁ、引っ越す必要なんてないよね?
なんで?なんで?
そもそも、今日引っ越すこと、どうして教えてくれなかったの?
昨日まで普通に笑っていたのに・・・。

そんな気持ちが顔に出ていたようで、お兄ちゃんは困ったように「ごめん」と呟いた。

「言おうとは思ってたんだけど・・・」

もういいっ!
勝手に決めて。あたしには内緒で。
要するに、子どもっぽいあたしの相手がイヤになったってことでしょ?

「っ・・・お兄ちゃんなんてもう知らないっ!」

自分の気持ちを全部口にするのも悔しくて、これだけ言ってお兄ちゃんに背を向けた。

「まゆ・・・!」

お兄ちゃんは何か言いかけたけど、あたしは一人怒っていて。
お兄ちゃんを振り返ることなく家に入った。





乱暴に扉を閉めて、はぁ・・・と大きく息をつけば、目の間にパパが立っていた。

「騒がしいと思ったら・・・朝から、カズとケンカ?」

「うぅ・・・うるさくしてごめんなさい・・・」

呆れたようにため息をついたパパに、朝からお説教は堪らないと、とりあえず謝った。
あたしは絶対悪くないけど。

「何が原因?」

「・・・お兄ちゃんが引っ越すって・・・」

「あぁ、今日だったか。」

「え?パパ知ってたの?」

「うん。そうじゃなくて・・・あいつは何を言って我が家の姫を泣かしてくれてんの?」

苛立たしそうにそう言って、でも優しく頭を撫でてくれる。

「え?あたし、泣いてなんか・・・あれぇ?」

触った頬は濡れていて、無自覚に涙が出ることってあるんだなぁと驚いた。