ケイと雪は、幼なじみである。
二人の母親が中学時代からの親友と言うことで、小さい頃から二人一緒に過ごすことが多かった。

ケイの母は、イギリス系アメリカ人で、雪の母親は、ドイツ系アメリカ人のハーフだったこともあり、二人は、幼稚園から 中学までをアメリカンスクールで過ごした。

小さい頃から、まわりに美少女。美少年と騒がれるくらい、顔立ちが良く、回りの人にも恵まれていたので、二人して、優しい性格だった。

二人が、4歳になったある日のこと、ケイが指輪をもって、「大きくなったら、ぼくとけっこんしてくだちゃい… marry me」と恥ずかしそうに雪に言った。もちろん雪の答えは「yes!!yes」だった。
そして二人は、約束を交わした。「雪ね。ケイ君のこと好き だからね、ケイ君のこと好きな間はね んとね、ずっとねこの指輪つけとくからね」 「じゃあ僕も雪ちゃんのこと好きだからずっとつけとくね 約束ね」 「うん 約束!」 自分の気持が、相手に向いている限り、このお揃いの指輪を身に着けていなければならない。

あれから、11年がすぎ、いまの季節は、春。
中学までの、アメリカンスクールと違い、今日から、憧れの高校生。ケイ君と同じ高校!

ただいまの時刻...7時30分
「雪〜そろそろ起きないと、入学式に遅れちゃうわよ...新入生代表のあいさつをケイ君とするって張り切ってたじゃない」 
「mom. wait minute〜(もうちょっと〜)」ベットの中で言う声。

「wake up!! now!! もうケイ君いちゃったわよ!!」怒った母。
「うっそ!!」ベットから飛び上がる雪。

ただいまの時刻...7時40分
歯磨き………3分
着替え………2分
髪整え………3分

計……………8分

 
7時48分
「行ってきまーす」
走って学校へ向かう雪。
「8時に学校についていればいいんだよね。ここから学校まで、走れば10分...いや5分で行けるか よし間に合う」 
そう言って、坂を上る。
途中、何度か近所の人に、あいさつをされ、「おはようございます」と走りながら返す雪。

7時50分
「あと3分」
小さな林を抜け頭に葉っぱを乗せて走った。
遠目に学校が見える。
『ここを右に曲がって…』
雪が道を曲がろうとしたその時、ケイが自転車で横切った。

雪が声をかけた。
「ケイくん」
でも、ケイは、雪にきずいては、いなかった。きっと、照れ臭そうに下を見ていたせいだろう。
雪の目に飛び込んできたものは、
自転車の後ろに乗っていた同じ制服の女の子。
その子は、ケイの背中に腕を回し、ピタリとくっついている。ケイは、顔を赤らめていた。
それを見た雪は、無意識のうちにケイの手を見た。
そして、雪はその場で、一粒の涙をこぼした。
雪は涙を拭いて、また歩き始めた。
「行かなきゃ…新入生代表の挨拶があるんだもん」
そう呟き、雪は正門をくぐった。
8時01分
みんなが、体育館に集まってきた。そこに雪の姿はなかった。
雪は、裏庭にいた。
校舎と、体育館の間の隙間…
そこは、暗くてほとんど人が入ることはない。
そこに一人うずくまり、
作り笑いとともに、自分の中で話をそらしていた。
「あ〜ぁ。入学式サボっちゃった。先生達になんて言おうかな? トイレにこもっていた。とでも言うかな〜」
雪の目には涙が溢れていた。
「これが、失恋の気持ちか」
その時、優が雪の横を通った。
二人は目が合い、泣いている雪を見て、優は驚き、
「君、大丈夫?保健室まで歩ける?おんぶしようか?」
と言い、しゃがんで、おんぶのそぶりを見せた。
雪は、首を振った。
優は安心して、雪の側に座った。
「違うの?… じゃあ降られでもした?」
冗談半分で聞く優。
でも、雪の返事は、返ってこなかった。
かわりに返ってきたのは、雪の泣き声だった。
「ごめんね…無神経だった。
君の名前は?」
小さな声で答える雪。
「雪は、綺麗だし…すぐに、もっといい人が見つかるよ
ねぇ?だから泣かないでよ」
雪は、ムッとなり、言い返した。
「ケイくんよりいい人なんていないの」
・・・
「そ そうなんだ」
ちょっと困る優。
我に返った雪は、ポツリと謝る。
「あっ…ごめん」
「ううん、僕が悪いよ…」
そして、少しの間、二人の間に、シーンとした空気が流れた。

体育館から聞こえた、ケイの挨拶「まず、言いたいのは、今日新入生を迎え入れてくれた、上級生、先生方へのお礼です……」

少しして、雪が喋り始めた。
「どうしてなんだろう。
私、ケイくんのこと好きだったよ…ずっと。
どうして、外す前に一言でも言ってくれなかったのかな
もう好きじゃないんだって…」

優は、雪に質問した。「外すって何を?」
雪は、切なそうに笑って、回すように指輪をいじりながら、答えを返してくれた。
「指輪。小さい頃にね、約束したんだ。好きな間は、外さないって。今考えたら、可愛いかったなあの頃は、って思うよ。お互いに素直だったし言いたいこともすぐに言えた。小さかったけど小さいなりに、本気の約束だったんだよね。少なくとも私は…今でもね。」