「サクラちゃん、サクラちゃん!」
「…んっ、」
遠くで私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「サクラちゃん、着いたよ!起きて!」
肩をゆさゆさと揺さぶられ目を開ければ、男には勿体無いくらいのキレイで可愛い顔が目の前にあった。
キレイで可愛い顔をした男なんて私の知り合いにはいないが顔見知りなら1名いた。
いや、2名か。
「ほら、行くよ」
動こうとしない私の手を引っ張り車から引きずり下ろして3日前に訪れた相変わらずデカイ倉庫の入り口へと一直線な悠麻。
チラリと後方にあるさっきまで私が乗っていた車を見れば、みんな先に行ってしまったのか誰もいなかった。
「…手」
左斜め前を歩く悠麻に向かって訴えてみた。
と言ってもそんな単語だけじゃ理解できるわけもなく「ん?」とこちらを振り返った悠麻。
きっと、学校にいる女子だったら今のこの状況に歓喜をあげて喜ぶんだろうな。
頭の片隅でそんなことを思いながら掴まれていないもう片方の手で左手に巻きついている悠麻の手を外し、歩き始める。
「サ、サクラちゃんっ」
まさか手を外されるとは思ってなかったみたいでポカンとしていたが我に帰った瞬間焦ったように私のところに飛んでくる。
「…自分で歩けるから」
別に逃げやしないよ。
…今は、逃げれるとも思ってないから。
「……ごめん」
今度は私の手に触れることなく隣を歩いている悠麻から聞こえてきた声に思わず立ち止まってしまった。
今のって……空耳?
もし、今私の隣にいるのが寛人だったらまだ理解できたかもしれない。
と言うより驚かなかったかもしれない。
「サクラちゃん?」
立ち止まって思わず彼の顔を凝視している私に困惑気味。
「なんでもない」
無意識か……。
そんな本人を目の前にして言えるわけない。
少し拒絶しただけで、他人の不幸を愉しむ奴の口から謝罪の言葉が零れた事に驚いたなんて。
