紅〜kurenai〜





あと5分で2限終了の合図を告げる鐘がなるって時に教室に着いてしまった私は、こんな夏の時期に暑い廊下で待つなんて考えは生憎持ち合わせていなかった。



そして周りの視線を気にせずに後ろのドアを開けて中に入ったことを、あと5分くらい待ってれば良かったと激しく後悔したのはすぐのこと。




「あー!!サクラちゃんやっと来たっ」





周りがシンとしてる中、一際うるさい声が教室に響く。



そして次の瞬間には騒めきに変わる。


コソコソと言ってるつもりなんだろうがこんな至近距離で内容が聞こえないわけがない。
まあ聞こえなくたとしても大体予想はつくけどそんなんに一喜一憂して傷つく程バカではない。


むしろ、呆れるくらいだ。


バレないようにため息をついて騒ぐクラスメートを無視して自分の席へと一直線へ進む、が。




「おはようサクラちゃん」



1番厄介な奴が残っているわけで。



話しかけないでって言いたいけど、みんながいる手前そんなこと言ったら明日から平和になんて暮らしていけない。


目の前の奴に絡まれている時点で平和とは言い難いかもしれないけども。



「……」



無視を決め込んだ私は鞄を机の脇に掛けチラリ前を見れば、カタカナで書かれた人物名が並んだ黒板とアタフタ困惑気味の先生が目に入る。



「すいません続けてください」



たまたま目に入った時計を見れば後3分しか残っていないが。


それだけ言うと私は席に着き机に顔を伏せた。




「…地味なくせして挨拶無視するとか何様のつもりよっ」


「話しかけてもらえるからって調子乗っちゃって!」



机に伏せたからってそんな声が聞こえなくなるわけではなくて、しっかりと私の耳に届いていた。




「サクラちゃん見かけによらず意外と不真面目だねえ〜」



私に聞こえるわけだから、隣にいるコイツにも聞こえてないわけではないというのにクスクス笑いながら話しかけてくるのは天然且つバカなのかそれとも故意的なのか。





「何か問題でもある?…悠麻」



……きっと後者だ。



未だ隣でクスクス笑いながら私の方を見ている悠麻に思わず眉を顰める。
舌打ちが出そうになるのをギリギリのところで抑え、煩わしい悠麻の視線から逃れるように上げていた顔を元の位置に戻した。