《匡哉 side》
–––––パタン
理事長室の扉が閉まり、俺らの視界からサクラが消えた。
それなのに、閉まった扉を見つめたままどちらも口を開かないのは何故か。
––––開かないんじゃなくて開くことができないからだ。
「…一瞬、誰かと思いました」
その重すぎる沈黙を破ったのは、未だサクラが出て行った扉を見つめたままの皇で。
”知らなかったらわかんなかった…”そう続けて呟いた声がやけに理事長室に響いた。
確かに、あの姿を見てサクラと結びつけるのは少々……だいぶ難しい。
それでもサクラと見抜けたのは、俺と同様に皇にとっともサクラが大切で、サクラの味方であるから。
「……変わんないですね」
そう小さく吐き出された皇の言葉は独り言なのか、俺への投げかけなのか。
この際、どっちだっていい。
確かにアイツは変わらない。
あの独特の雰囲気や冷めた性格。
嫌でも人を惹きつけてしまう容姿とオーラ。
無表情なところも不器用さも素直じゃないところも。
1年前と、何も変わらない。
ただ一つ。変わってしまったと言うならば。
「更に、深くなった…」
俺の声なのか皇の声なのかわからなかったけど、感じ取った事は同じだったみたいだ。
元々、表情は豊かな方ではなかった。
感情を表に出すのが苦手だ、といつの日か言っていた気もする。
さっきも仮眠室に戻ってきた時、サクラ自身は叫んだつもりでいたのかもしれないが俺には”普段の声より少し大きい声”にしか感じられなかった。
決して俺の耳が悪いわけではない。
100人中100人聞いても俺と同じ答えを言うだろう。
それほど、アイツは感情の起伏を表情に出さない…––––––いや、出せないんだ。
だから、どんな小さな変化でも見落とさないようにサクラのことを見るのはもう俺の身体に染み込んだ癖というか慣れというか。
注意深く見ないと見落としてしまうアイツの感情は、ホントに小さい変化だ。
眉がピクッとしたり、目を瞑ったり、口角が動いたのか疑うほど小さく上がったり。
初対面の奴には到底読み取れない仕草でもあって、俺だからこそサクラの考えてることがわかるんだ。
…なんて、かっこいいこと言うけど実際俺もここまで来るのに時間がかかった。
