紅〜kurenai〜





何でそれが決め手になったのか理解できず首をかしげる私に匡ちゃんが話してくれる。



鏡の中に映る、洗面所のドアに寄りかかり腕を組みながら話す匡ちゃんの話に静かに耳を傾ける。



「瓶底眼鏡なんて掛けてやがるから最初は半信半疑だったが、最後に会った時から変わらねえあの揺るがない強い意志を持った目。…まさか、と思ったけど外見は180度違うし俺の考えすぎかと思った」



「…」



「けど、目の前にいる霜村サクラの纏うオーラがとてもじゃないけど俺の知ってるサクラに似過ぎてて、お前と目が合った瞬間、確信したよ。お前が俺のよく知るサクラだって」




名探偵ですか、と突っ込みを入れたくなるけど、匡ちゃんにとってはそれは当たり前っちゃ当たり前の事で「そっか」しか言えなかった。









「じゃあ、行ってくるね」



見かけによらず意外と家庭的なところもあるらしい匡ちゃんの洗濯物を干す後ろ姿に声をかけ仮眠室を出た。




扉が閉まる前に「行ってこい。気をつけろよな〜」という声が聞こえた。



「気をつけろったって一歩外出ればもう学校なんだけど…」




いつもは家から歩いて10分程度で着く学校が今日は3秒だ3秒。

気をつけるも何もない。
既に学校の敷地内にいるわけであって1番安全な理事長室なんだから。





そんな事を思いながらキッチンを通り抜ければやっと見慣れてきた理事長室に出て。

当たり前のことだけど、こんなに楽な登校がこの世に存在しているとは思わなかった。



家と学校間は10分。


たった10分、されど10分。




「帰るの面倒な時はここに泊まろうかな…」




なんて考え始める始末。




匡ちゃんが許してくれなさそうだけど、度々ならいいかな。



そう思って、教室に向かおうと出口のドアに向かって足を一歩踏み出した時。




「は?」



ソファーに座る人影が見えた。




「あ?」




何処ぞのヤクザだよ。とツッコミを入れたくなるほどの形相で振り返った人物の顔を見て、私は直様仮眠室へと引き返した。