紅〜kurenai〜



「いや、俺いつも朝飯作ってただろ」



そんな私の心の中を読んだかの様な声に昔の記憶を引っ張ってみる。


……。



うん、確かに毎朝作ってたね。
但し、フレンチトースト限定。


他の料理は……うん…壊め…ーー


「それ以上ろくでもねえ事思い出すなよ?」


どうやら、私が思い出している内容がわかったらしい匡ちゃんの低い声に私の回想が強制停止させられた。



「てか、なんで私の考えてる事わかんの」


そこに疑問を感じる。


さっきから3回ほど心の中を読まれて軽く警戒してしまう。



そんな私に


「あ?思いっきり顔に出てんだろうが」


さも当たり前のように言う匡ちゃんの言葉が理解できない。


いや、言葉の意味は理解できるよ。

けどそう言われるとは思ってもなかった。



だって


「何考えてるかわからないって言われ続けてきたんだけど」


喜怒哀楽の表現の仕方を忘れたあの日から感情も考えてる事も顔に出なくなった。

だから、今まで出会ってきた人たちには「何考えてるかわからない」と言われ続けてきた。


当然、そんな人たちとそれ以上の人間関係を築けるわけもなく。
まあ別に元々自分からそんなに進んで仲良くなりたいとか思わなかったし仲良くしてほしいとも思ってなかったから逆に好都合だった。



だから、今までその事に関して大して気にしてもなかったし彼奴らも何も言わなかったから匡ちゃんにそんな事を言われてただただ吃驚。




「そいつらはお前の事ちゃんと見てないだけだ」



若干戸惑っている私にそんな事を言いながら食べ終えた食器を持って流しに向かう匡ちゃん。




匡ちゃんが私の考えてる事がわかる様に、私にだって少しくらい匡ちゃんが考えてる事、行動や仕草や言葉遣いから読み取る事ができる。







”俺らはちゃんとお前の事を見てるからな”





要するに、こう言いたいんでしょ?





朝ご飯と一緒にコーヒー飲んでたっていうのに冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出しがぶ飲みしてる匡ちゃんに笑みが零れる。




「…素直じゃないんだから」



私はそれ以上に素直じゃないけど。




願わくば、わかってて欲しい人がわかってくれているんだったら別にいい。


わかってもらおうとしなくたって。




笑顔貼り付けて味方を増やすよりありのままを受け入れてくれる人が1人いれば全然いい。



だから。










もうこれ以上

大切な人を、全てを受け入れてくれる人を、作りたくないんだ。