紅〜kurenai〜



「誰か来てたんですか?」




そう言う佐伯の視線は、俺とコイツらの間にあるテーブルの上のカップに向いていて。



まだ、若干暖かいそれはついさっきまでここに人がいた事を物語っている。




失敗したな。



なんて思いつつも「明日から新しくくる教師が挨拶に来ててね」と一切の動揺をコイツらに悟られぬよう堂々とする。




……俺もまだまだ、落ちてねぇな。




フッと笑みが溢れそうになるのを抑えて目の前にいる3人を視界に捉えれば。




3人とも全員が同じ顔をしていた。





「こんな時期に……?」




まさにそんな顔。


先ほどのサクラと全く同じ顔をする3人が面白い。



まあ無理もねえよな。

夏休みまであと少しなんだし、休み明けから来いよって誰しもが思う。



実際俺もそう思ったし、色々とやらなきゃいけない事もあり面倒だから夏休み明けにしろって言ったんだけど、案の定答えはNoだった。





彼奴だけに関わらず彼奴ら全員に言える事だ。
ここで明日から来ても良いって言っとかないと、やらなくてはいけない面倒な事よりも更に面倒な事になる。




実際、書類やら手続きやらは全て彼奴にやらせれば問題ねえしな。



ただサクラに降りかかる被害だけは防げねえ。


夏休み明けにあーだこーだ言われるなら夏休み前に言われた方がまだマシだ。



…サクラには彼奴の犠牲になってもらうしかない。







なんだかんだ言いつつもサクラが彼奴の事を本気で嫌がってるわけではない事は知っているし。










理事長で学校の治安を保たなければならない俺よりかは1人の教師である彼奴の方がサクラの事を見てられるしな。