紅〜kurenai〜

「…ラッ!サクラッ!!」


「…っ」



匡ちゃんの声にハッと我に帰る。






「大丈夫か?」


「大丈夫だよ…」



私の強がりに顔を歪ませる。












今は、必死に作っても、笑えてないことなんてわかってる。







「それで?匡ちゃんの話って?」



話題を変えたくて無理やり頬の筋肉を持ち上げ匡ちゃんから視線をそらす。






今はその事には触れて欲しくないから。






「…いや、俺の話はまた今度でいい」


「え?いいの?」



予想外の答えに思わず拍子抜けてまた視線を戻せば








「お前にそんな顔させるくらいなら話したくねえ」




匡ちゃんの顔も酷く泣きそうな顔をしていた。




その言葉によって匡ちゃんの話の内容をある程度理解したけど


「な、んで…」


なんで、話さないの?


少しでも向き合わせようとしないの?


逃げ道を与えてくれるの?



なんで、



お前の好きなようにしろ。って思ってくれるの?





わからない。わからないけど、ただ一つだけ。





「アイツと約束してんだよ。”お前の笑顔は守る”って」




匡ちゃんの優しさに今も昔も救われていることだけはわかっている。




匡ちゃんのアイツに当たる人が誰なのか。思い当たる人が多すぎて誰だかわからないけど、誰でもいいやって思えるのは彼処の暖かさを知っているからだ。











「ありがとう」




これで何度目だろうか。


この言葉を言うのは。




「ああ」



そういう私に笑いかけてくれるのはこれで何人目だろうか。






「じゃあ、もう行くね。パソコンありがとう。助かった」



使っていたパソコンをシャットダウンし元の位置に戻してから鞄を手に取りドアに向かう。




「ああ。いつでも来いよ」



無理するなと言わないのは多分匡ちゃんなりの優しさである。



「うん。」



”ありがとう”


もう一度小さく呟いた。




匡ちゃんに聞こえたか聞こえてないかはわからないけどドアが完全に閉まる直前、見えた匡ちゃんの顔が優しく笑っていた。