紅〜kurenai〜



「獅子の全員が私が倉庫に通うことを認めたなら、毎日倉庫に行く。但し、1人でも反対する人がいるなら金輪際、獅子とは関わらない」



「勝算は?」


「80。残りの20を少しでも80に加算出来るようにここに来たわけ」




それだけ言うと、また手を動かした私に「そうか」とだけ言って黙ってしまった。




「…なんか見つかったのか?」


「下にいた奴らは、仁人がYesと言えばYes。Noと言えばNoでしょ?そこは変えようとも思わない。けど、あそこの5人は違うでしょ」



「5人って全員会ったのか?!」



いきなり大声を出した匡ちゃんに思わず耳を塞いで頭まで響くのを防いだ。



「仁人と寛人、それから双子にしかまだ会ってないわよ」




理事長の席に座っている匡ちゃんをこれでもかってほど睨みあげる。




大声出してもいいけど、いきなりここで出すんじゃねえ。うるせえんだよ。




「…殺気しまえ、悪かった」


「次やったら瞬間接着剤をその達者な口に塗りつけてあげるからね」


「悪かったって。…で、誰の調べたんだよ」



そう言う割には、もうわかりきった顔している匡ちゃん。


こういうところはホント誤魔化せないっていうか、さすがーーーーだと言うべきか。



理事長になってからここの生徒のバカさに頭が少しずつ侵され始めてる気がするけど、そこは目を瞑ろう。





「サクラ––––「アイ!お前どこ行ってたんだよ」…チッ」




理事長室の外からたまたま聞こえてきた生徒の声によって何か言おうとした匡ちゃんの声が遮られてしまった。



それに対する匡ちゃんの舌打ちもしっかりと耳に届いた。






















「…っ」




今、”あい”って言った……?



…っ、なわけ、ないか…。



あの子のわけ、ない…っ。



この世に”あい”って名前の人は何人いるのか。
そんなの数え切れないほどに決まってる。



それにこの足立学園は”彼処”から1時間半もかかる場所。

そんな遠くの学校に通っているわけない。




だから、大丈夫っ…。








匡ちゃんの舌打ちも私を呼ぶ声も聞こえている。





そのはずなのに、私の思考を停止させる程の力は持っていなかった。