「てことで、サクラちゃん。諦めて自己紹介しよっか?」
コイツ…タチ悪い。
はぁーー。
蒼麻以外のみんなの顔を見れば、言わない限り帰してもらえないのは目に見えている。
ほんっと、厄介なのに捕まったな私。
だけどここで素直に名前を言う私でもない。
「ねぇ…」
ゆっくりと目を閉じ不覚深呼吸する。
「1つ…条件を呑んでくれるなら名前も教えるしここに毎日通っても良いわよ」
まさか私がこんなこと言うとは思ってもいなかったみたいでその場にいた全員が驚いていた。
いつの間にか起きていた仁人だけは相変わらず無表情だったけど。
「何だ」
仁人の低音ボイスを耳にして再び目を閉じ空気を吸い込む。
「残りの2人と下にいた人達全員、それから蒼麻。この全員が私がここに通うことを認めたなら、私はここに来る」
「……」
「名前を聞くのはそれからでもいいでしょ?但し、1人でも嫌だという人がいれば私はここには来ない。貴方達とは関わりを持たない」
押し黙るみんなに追い打ちをかけるように紡いだ言葉は結構なダメージだったようで。
「ははっ。だいぶ手厳しいこと言うね〜」
私の嫌いな偽りの気持ち悪い笑顔でクスクス笑う寛人はそこまでダメージを受けてなかったみたい。
あんたが1番ダメージ受けていて欲しかったよ。
「…猶予は?」
動じずにそう言う仁人も衝撃を受けていないのか、もう既に条件を呑もうとしている。
いや、コイツは無表情なだけか。
「1週間。それだけあれば足りるでしょ?」
「ああ、十分すぎるくらいだ」
「なら5日にする?」
「フッ。上等だ」
口角を上げてニヤリとする仁人。
交渉成立。
きっと、仁人達がこの賭けに勝てる確率は20%弱。
80%の勝算が私にあるとは言え、あくまで予想でしかないこの数字に安心するわけではない。
こっちもこっちで手は打たせて貰うよ。
