「本当は、仁人の前に2人紹介したい人がいるんだけど今日ここには来ないからまた今度でいいかな?」
また今度、なんてないと思うけど。
曖昧に笑って見せた私を微動だにせずじっと見ている仁人。
「なに?」
私の顔に何か付いてますか?
スルーしようと思ったけど流石にあれだけ見られたら無理だ。
「……黒さ「知ってる」……チッ」
自分の名前を言おうとした仁人の声を遮ってそう言えば見事な舌打ちが返ってきた。
「名前しか言ってねえだろ」
「名前の他に何を言うっていうのよ」
「学校と学年とクラス」
「意外と真面目に答えるだね。でも、究極に知りたくないものだね」
「…チッ」
「てかまず、何で同じ名前を2回も聞かなきゃいけないのよ」
「黙って聞いてりゃいいんだよ」
「同じ名前を2回も聞くメリットなんてないでしょ」
「覚えが早くなるだろ」
「覚えたくもない名前ですけど」
「チッ…ウゼェ」
「その”ウゼェ”奴をここまで誘拐して来たのは何処のどいつだ」
その言葉にすっかり拗ねてしまったのか、それとも言い合うのが疲れたのか、再びソファーに深く腰掛けると目を閉じて寝始めた。
目を閉じる前に私を帰させろ。
と、怒鳴りたいけどそういう訳にもいかず…。
「まあまあまあ、落ち着いて。ね?」
いや、”ね?”じゃねーよ。
帰させてよ。ホントに…。
そんな事が顔に出てたのか態度に出てたのか。
「まだサクラちゃんの自己紹介が終わってないじゃん」
ニッコリ笑顔でそう言う悠麻は相変わらず可愛くて……じゃなくて。
「もう知ってるじゃん、名前」
名前なんて教えてもないのに仁人は知ってるし、ここに来る時からずっと悠麻だって「サクラちゃんサクラちゃん」言ってたじゃないの。
「俺はまだ知らないよ」
不意に聞こえてきた声を辿れば。
ソファーに足を組んで座わり、組んだ足に肘をついて手で顔を支えている寛人。
それだけで絵になりますね。
「俺と蒼は名前聞いてないから知らないよ」
変わらずニッコニコの寛人。
「…知りたくもねえよ」
「ん?蒼何か言った?」
「チッ…何でもねえよ」
圧をかけるようなニコニコ笑顔は最早黒笑へと変わっている。
