「お帰り。遅かったね」
部屋の中に入った私たち3人を迎えてくれたのは中央の三人用ソファーに腰掛けコーヒーを飲んでいた眼鏡茶髪のお兄さん。
長い足を組んで醸し出すオーラは穏やかなもの。
品がありとても優しそうで、この中で一番まともな人だろう。
「えっと、、お客さんかな?」
心底驚いたような顔で私を見て青髪君と仁人に確認するように尋ねた声に「ああ」とだけ短く答えた仁人は一直線に1人用ソファーに腰掛けた。
青髪君も青髪君でテーブルの上にあったバイクの雑誌に目をキラキラさせ食い入るように見ているところからしてきっと私の存在は忘れられてる。
バイクに負けたのか私、、。
自分たちが連れてきたくせに私を放置するなんて随分と酷いことするわね。
てか、目つきの悪い銀髪は?
私達より先に車から降りて私を待たずにさっさと倉庫の中に入ってったのに居るはずの姿が見当たらない。
目だけをキョロキョロと動かしていれば。
「空いてるところ座ってよ。今、飲み物持ってくるから」
いつの間にか目の前まで来ていた優しい優しい眼鏡のお兄さんが私をソファーまでエスコートしてくれた。
こんな地味な私にも親切に女の子扱いしてくれる眼鏡のお兄さんはなんて素敵な人なんだろうか。
「コーヒーと紅茶と麦茶どれが良い?」
「あ、えっと、じゃあコーヒーで」
「了解。じゃあ持ってくるからちょっと待っててね」
ソファーに座れば飲み物は何がいいか聞かれて手際よく準備をするその姿は最早紳士でしかない。
眼鏡のお兄さんがコーヒーを淹れてくれている間、仁人はソファーで寝てるし青髪君はいまだ雑誌から目を離せずにいるため、することもない私は部屋の中を眺めるしかない。
部屋の中央にテーブルとソファーがあって。
さっき入ってきた入り口のドアに向かって左側にはテレビが置いてあってその横に綺麗に並んでいるテレビゲームのカセットとコードとコントローラー。
その反対側の右側には眼鏡のお兄さんがいるキッチンがある。
冷蔵庫も食洗機も食器棚でさえある。
誰かスパイがいるのかと疑いたくなるほど。
一度入ったことがあるのかと聞きたくなるほどここの部屋の作りは彼処に似ている。
テーブルとソファー、テレビ、キッチンの配置。冷蔵庫の大きさや時計の位置。そして、あの部屋の場所……。
帰ってきた錯覚に陥るほど全く同じなんだ。
けど、私がそんな錯覚に陥るのを防いでいるのが、このテーブルの下に敷かれている白の絨毯。
あの場所と唯一異なるそれが私の記憶に再度鍵をかけてくれている。
彼処と異なる汚れを知らない白の絨毯視界にチラついたから私は”紅茶”じゃなくて”コーヒー”を選べたんだ。
このなんとも言えない気持ちは、懐かしさからなのか、それとも彼処を思い出してしまう心苦しさなのか。
ーーーーーーーきっと、両方だ。