「あ、ここだ」
10分くらいかけてようやく見つけた理事長室。
無駄にでかいからねこの学校は…。
ーーコンコンッ。
「はい?」
中から声が聞こえたから「霜村です」って言って中に入るつもりだった。
そう、本来ならもう既にドアノブを回して中に入ってなきゃいけないんだ。
なのにそれをためらうのは……
「どちら様ですか?」
中々中に入ってこない来客に不思議に思ったのか再び中から声が聞こえてくる。
…私が聞き間違えるはずなんてない。
なんで…?ねえ。なんでなの…?
はっははッ……。
そっか、そうだよね。
「霜村です」
ガチャリとドアノブを回して中に入る。
「急に呼び出して悪かったね。僕が出張中で顔合わせられなかったから、今日に……っ?!」
中央に置かれているソファーに挟まれてるテーブルのところまで歩いてきた私と、ゆっくりと顔を上げ私と目があった瞬間言葉に詰まる理事長。
”僕”、ねぇ……。
普段なら絶対言わないくせに。
転校先を聞かされた時、”何か”あるとは思ってた。
けどまさかその”何か”にこんなにも早く出会うとは思ってもみなかった。
「……サクラなのか?」
静かな長い沈黙を破ったのは理事長。
「…久しぶり、匡ちゃん。」
1年ぶりに聞く懐かしき声だった。
「やっぱりそうか」
私はいつも通り、膝下スカートで瓶底メガネのおさげであの頃と全く違う姿なのに1発で見抜いちゃうなんてね。
––––––––––––ここは、大丈夫。
さすが匡ちゃんと言うべきか。
だから私も教えられる範囲までは教えなきゃ。
もし匡ちゃんが100の答えを求めたとしても今はそのうちの10くらいしか答えられないと思うけど。
一度だけ深く深呼吸してから
「私ね、霜村 サクラになったの」
この名前を口にすることがいまだに慣れない。
”霜村”になってからまだ半年しか経ってないが。
…一生慣れることは、きっと、ない。
上手く笑えたかはわからない。
けど、声だけはなるべく震えないように明るい声で話したつもり。
「今、紅茶淹れるからそこのソファー座っとけ。話しはそれからでもいいだろ」
相変わらず気が利くね、匡ちゃんは。
変わってない後ろ姿に笑みをこぼした。
「うん、ありがと」
