「…ここか」
待合室を出てから悠のいる病室に向かった俺は3階までエレベーターを使わず敢えて階段を使った。
理由は簡単。
まだ直接悠の顔を見る勇気がないから。
だから階段をゆっくりと登りながら覚悟を固めようとしたんだけど、案外早く305号室についてしまった。
今更後悔したって仕方ない、そう無理やり割り切って目の前にある病室の扉を左に引いた。
扉を開ける左手が震えてることに知らないフリをして。
「悠…?」
暗い病室の中転ばぬよう手探りでゆっくりと悠のいるベッドへと向かう。
幸い、悠はまだ目覚めていなかった。
「……ごめんな」
まだ幼さが残る自分と瓜二つの寝顔を眺めながら申し訳なさで一杯になる。
会いている窓から入ってくる心地よい夜風が冷めきってない俺の頭を冷やしてくれる。
夜中の0時を過ぎた病室は気持ち悪いほど静かだ。
『弱くてもいい。だけど逃げんじゃねえぞ』
待合室から出る時に慶さんに言われた言葉が頭の中で木霊する。
逃げてはいけないことも、逃げている自分に気付かないふりしていたことも、わかってた。
わかってたけど遠回りすることなくストーレトに核心を突いた慶さんの言葉に何も言えなかった。
図星を突かれて何も言えなくて逃げてないフリしてた自分が恥ずかしくなって間違っていると痛いほど思い知らされたけど”弱くてもいい”その言葉に心底救われた。
「あの人には勝てない」
週に3回の2時間くらいしか会わないのに俺のことをそこまで見抜いている慶さんは何者なのか。
気になるけど聞いてもどうせ教えてくれないだろうし聞いてはいけない気がする。
慶さんが何者だろうとあの人はあの人に変わりないんだろうな。
ヘラヘラしてて能天気でこっちが呆れるくらいポジティブで。
仮に慶さんがヤクザの人でも組長でもどこかの社長でも俺らの前ではいつもの慶さんなんだろうな。
「…ありがとう」
直接顔を見て言えなかった言葉が口から零れ落ちる。
慶さんの顔を見て言えなかったことに後悔が押し寄せてくるが、きっとこの先あの人の前で俺が素直に感謝の言葉を口にすることはできないと自分でもわかりきっているからこれでいい。
「また、明日。迎えに来るな」
未だ目を覚まさず俺の心とは似ても似つかない真っ白なベッドの上で寝ている悠にそう言葉を零し病室を後にした。
世間の学生たちが3週間後に夏休みという長期休みを控えている初夏の夜風は生温い。
先ほどまで熱を持っていた身体にはその生温ささえも冷たく感じて頭を冷やしてくれるもので心地がよかったが、熱が冷めた今の俺にとってはその生温さのせいで肌が汗でベタつき鬱陶しい。
帰りたくもない家までの帰り道の途中、気だるげに見上げた夜空は歪んで見えた。
排気ガスや有機物で汚れきっているこの街に綺麗な星空なんて見れる筈も無いのに、なににも汚れていない澄み切った満天の星空を見てみたいなんて思う俺はきっとどうかしている。
–––––––薄々と、気づいてた。
まだ、終わっていない。
それどころか、始まりだと。
そしてそれがすぐそばまで来てることにも。
待合室を出てから悠のいる病室に向かった俺は3階までエレベーターを使わず敢えて階段を使った。
理由は簡単。
まだ直接悠の顔を見る勇気がないから。
だから階段をゆっくりと登りながら覚悟を固めようとしたんだけど、案外早く305号室についてしまった。
今更後悔したって仕方ない、そう無理やり割り切って目の前にある病室の扉を左に引いた。
扉を開ける左手が震えてることに知らないフリをして。
「悠…?」
暗い病室の中転ばぬよう手探りでゆっくりと悠のいるベッドへと向かう。
幸い、悠はまだ目覚めていなかった。
「……ごめんな」
まだ幼さが残る自分と瓜二つの寝顔を眺めながら申し訳なさで一杯になる。
会いている窓から入ってくる心地よい夜風が冷めきってない俺の頭を冷やしてくれる。
夜中の0時を過ぎた病室は気持ち悪いほど静かだ。
『弱くてもいい。だけど逃げんじゃねえぞ』
待合室から出る時に慶さんに言われた言葉が頭の中で木霊する。
逃げてはいけないことも、逃げている自分に気付かないふりしていたことも、わかってた。
わかってたけど遠回りすることなくストーレトに核心を突いた慶さんの言葉に何も言えなかった。
図星を突かれて何も言えなくて逃げてないフリしてた自分が恥ずかしくなって間違っていると痛いほど思い知らされたけど”弱くてもいい”その言葉に心底救われた。
「あの人には勝てない」
週に3回の2時間くらいしか会わないのに俺のことをそこまで見抜いている慶さんは何者なのか。
気になるけど聞いてもどうせ教えてくれないだろうし聞いてはいけない気がする。
慶さんが何者だろうとあの人はあの人に変わりないんだろうな。
ヘラヘラしてて能天気でこっちが呆れるくらいポジティブで。
仮に慶さんがヤクザの人でも組長でもどこかの社長でも俺らの前ではいつもの慶さんなんだろうな。
「…ありがとう」
直接顔を見て言えなかった言葉が口から零れ落ちる。
慶さんの顔を見て言えなかったことに後悔が押し寄せてくるが、きっとこの先あの人の前で俺が素直に感謝の言葉を口にすることはできないと自分でもわかりきっているからこれでいい。
「また、明日。迎えに来るな」
未だ目を覚まさず俺の心とは似ても似つかない真っ白なベッドの上で寝ている悠にそう言葉を零し病室を後にした。
世間の学生たちが3週間後に夏休みという長期休みを控えている初夏の夜風は生温い。
先ほどまで熱を持っていた身体にはその生温ささえも冷たく感じて頭を冷やしてくれるもので心地がよかったが、熱が冷めた今の俺にとってはその生温さのせいで肌が汗でベタつき鬱陶しい。
帰りたくもない家までの帰り道の途中、気だるげに見上げた夜空は歪んで見えた。
排気ガスや有機物で汚れきっているこの街に綺麗な星空なんて見れる筈も無いのに、なににも汚れていない澄み切った満天の星空を見てみたいなんて思う俺はきっとどうかしている。
–––––––薄々と、気づいてた。
まだ、終わっていない。
それどころか、始まりだと。
そしてそれがすぐそばまで来てることにも。
