話し終えた頃には待合室にある灰皿のタバコの数は先ほどの2倍へと変化していた。
何も言わずに俺の話を聞いてくれてた慶さん。
多分、というより絶対。
慶さんにとってはどうでもいい話。
こんな話されたってだからなんだっていうレベルだと思う。
だから励ましの言葉とか同情の言葉なんて一切望んでない。
ただ、俺が話したかっただけ。
胸につかえる蟠りを無くしたかっただけ。
五本目となるタバコを吸う慶さんの表情からは何も読み取れない。
でも、Barで何度か見たことあるこの表情はよく知っている。
嬉しそうに楽しそうに昔の話をした後の切ないような哀しいような表情だから。
きっと、懐かしい記憶を思い返しているんだろう。
「そろそろ、行くわ」
いつもの調子を取り戻してきた頃には慶さんがここにやって来てから2時間半が経過していた。
慶さんの知り合いだという人が気を利かせてくれたのか、2時間半の間この待合室を訪れた者は誰もいない。
面会時間なんてとうに過ぎている夜間だからってのが第一の理由だが。
立ち上がった俺に対してまだ座ったまま吸い始めたばかりのタバコを吹かしている慶さん。
「ありがとうございました」
深く頭を下げる俺に「おう」とだけ返事を返した慶さんに背を向け、向かうは悠の待つ病室。
先ほど305号室にいると慶さんに教えてもらったばかりだ。
待合室の扉に手をかけた時
「蒼麻」
名前を呼ばれて振り返った。
その時の慶さんの優しい穏やかな顔を俺はきっと一生忘れないだろう。
そして、待合室を出る直前に言われた言葉も、きっと一生…–––––––––。
蒼麻が出て行った待合室に電子機器の音が鳴り響いた。
「もしもし」
『…ビンゴ。今日で終わり』
「わかった。一応、手は打っておく。悪いな手伝わしちまって」
『駅前の特大パフェ3つね』
「…はっ?!3つも?!!」
『何か文句でも?』
「いやいやいやありまくりだろ」
『慶のお気に入りの奴らなんて正直どうでもいいのにわざわざ10分以内に調べてっ–––』
「わーったよ!3つ買えばいいんだろ!」
『初めからそう言えよアホ』
「アホって……。てか、お前よくあん時気付いたな」
『知らないモノだったから』
「まあ、お陰で助かった」
『で、あんたはいつ帰ってくんの?』
「この後東雲に会ってから帰るよ」
『瀬奈に伝えとく』
「ん、じゃあまた後で」
終了した携帯の画面を見つめる慶の顔は誰も見たことがないくらい優しさで溢れている表情だ。
先ほどまでの会話はもちろん、
「変わんねえな”サク”は」
ポツリと囁かれた慶の言葉を知る者は誰もいない。
