紅〜kurenai〜

「あの人が止めてくれなかったらって考えると、正直自分でもゾッとします」



何時もは敬語なんて使わないくせに、何故か今は自然と出てきてしまう。

それに慶さんが気付いているのかは知らないけども。



あのまま殴り続けていたら。


慶さんたちが来ていなかったら。



どうなっていたんだろう?


考えるだけで頭が痛くなるくらいだ。




「けど、彼奴がお前を止めてくれたんだから結果オーライだろ」



この人はきっと根っからのポジティブ人間なんだろうけど、俺もこの人みたいに軽く笑い飛ばせるほどの強さが欲しい。



1年前の闇に呑まれないほどの強さが。


自分の感情をコントロールできる強さが。



–––––欲しくて欲しくて、堪らない。





「慶さん、人を殺したことってありますか?」


「急に物騒な話になったな」


ギョッと驚いた顔をした慶さん。


確かに慶さんからしたらこんな中学そこらのガキが何を言うんだって話だ。



「殺したことなあ〜、あるかもしれないしないかもしんねえな」



答えの内容は別として真面目に答えてくれるのは慶さんの優しさなんだろうか。


そして答えを濁すあたりつくづく秘密主義だなとも思う。





「…1年前、俺は見ず知らずの奴を半殺しにしました」


「…」


「理由は、特にない。強いて言うなら、ムシャクシャしてたから」


「(いつになく饒舌だな…)」


「気付いたら周りに野次馬が沢山いて、相手は顔の原型も留めてなくて自分自身も真っ赤でした」


「…」


目を瞑れば今でも鮮明に蘇ってくるあの光景。


俺の闇でもあるソレは1年経った今でも俺の前にのうのうと現れるんだ。



そしてその闇は俺を痛めつけるだけでなく、



「ふと上げた視線の先に、悠がいて。俺の顔を見た時の悠の顔が恐怖に染まってた」



双子の弟、唯一無二である悠の事も痛めつけてしまう。



「周りの人にどう思われようがどうでも良かった。けれど悠には、悠だけには感情をコントロールできない自分を見られたくなかった」


「…」


「俺が怯えたような、軽蔑するような視線に耐えきれないから」


「…」


「1年経った今でも人を半殺しにした事実より悠の怯えた表情の方が脳裏にこびりついて離れない」




あの時、怯えた悠を見た時、決めたのにな。


悠の前だけでは理性を崩さないようにしようって。


あれから1年、無法地帯でいくら喧嘩をしても理性を崩壊させ暴れることは無かったから大丈夫だと信じてた。


けれど、それはやはり俺が信じていただけに過ぎずただの俺の願いだっただけ。



「あそこに着いた時から、気づいてた。自分の違和感に。けど、止められなかった」


「…」


「その結果、再び悠にあの1年前の恐怖を植え付けた。俺を見た悠の震えている身体を見て後悔なんて言葉じゃ足りないくらい後悔した」




そして、また俺の記憶に悠の怯えた表情が焼き付けられる。






「悠は、今…?」


「病室で寝てる」


「そっ、か…」



悠に会わせる顔がない今、それを聞いてホッとしたのは確かだ。


けれど、悠を連れて帰るのは俺だ。


安心させてあげられるのも頼れるのも俺しかいない。



そんな俺が、悠の知らない俺になったら。


どんなに不安なんだろうか。



ごめん…。


ごめんな悠–––––。