《蒼麻 side》
例えるなら
深い海底の中で眠っている感覚。
もっと言うならば
暗闇の中でただ1人佇んでいる感覚。
もう、大丈夫だと思ってたけどそれは俺が勝手に思ってただけに過ぎなかった。
1年前のあの日から真っ暗な暗闇という俺の立ち位置は変わってなかった。
暗闇に差し込む光に辿り着けた筈だったがそれはただの霞んだ光でしかなかった。
「蒼麻」
名前を呼ばれて顔を上げれそこには見知った顔の人が立っていて、深く息を吐いた。
俺のことを略さずに蒼麻と呼ぶ人は俺の知り合いに1人しかいない。
「慶さん…」
暴れ出した俺を止めてくれた事とか迷惑かけた事とか言わなきゃいけないことがたくさんあるのに「気にすんな」と俺の頭をクシャッと撫でながら言う慶さんに先回りされた。
…やっと、上手く呼吸ができた。
俺が殴り続けた奴が搬送された先の病院の待合室には俺と慶さんしかいない。
お互い何も話さず時計の針が進む音だけが室内に響く。
「俺の知り合いがやってる病院だから警察にも親にも連絡はいかねえ」
だから安心しろ、そう言う慶さんに心の底から感謝した。
あの欲望の地帯に来てるくらいだから親とは無縁なんだろうからそこは心配していなかったが、警察沙汰にでもなったら、本気でヤバかった。
何がって、世間体的に。
ここにまで来て新名を気にしている自分に笑えてくる。
嫌いなら思う存分反発すればいい。
嫌なら迷惑かければいい。
それなのに迷惑かけてはいけない人に迷惑かけた上に結局は最終的に新名の名を気にしている自分が憎い。
何も聞かずに隣でタバコを吸っている慶さんは何者なんだろう。
そして俺の腕を捻り上げたあの男。
「慶さん、彼は…?」
「彼?」
吸い殻を灰皿に押し付け火を消した慶さんは誰だ?って顔をしていたけど直ぐに「ああ」と俺の言う彼が誰を指しているのかを理解した。
「彼奴は気まぐれだからな〜」
慶さんは困ったように笑ってるけどその瞳がいつもよりも優しいことに気付いているのだろうか?
「いきなり店を飛び出して廃校に向かった時はビビったけど」
俺は、あの人に拳を止められたことにビビったよ。
肌に感じるあの人のバカでかい殺気に圧倒され、正気に戻ったんだ。
