謎の男と慶さんのやり取りを横目に、片腕を掴まれたままでいまだ自分の眼の前に転がる原型をとどめていない男を射殺すような目で見つめる蒼。
何故蒼がそこまで名前も顔も年齢も知らない奴を恨むのか。
何故そこまで殺したいと思うのか。
何一つわからない。
わからないから怖くなる。
新名蒼麻という人物がわからなくて、怖くなる。
今、目の前にいるのは俺の知っている蒼じゃない。
……じゃあ、誰だ?
––––––わからない。
そもそも俺の知っている蒼というのはなんだ?
基本は冷めているけど、実は優しい。
興味のないことはとことん興味がない。
面倒なことを嫌う。
等、挙げればいくらでも出てくる。
けれどそんな蒼でさえも本当の蒼ではないんじゃないかと思えてしまう。
なんの感情も持たず冷酷な目で未だ地面に転がる男を見つめる俺の知らない蒼に、早く俺の片割れの蒼に戻ってくれと思わずにはいられない。
謎の男と慶さんがまだ何か言葉を交わしているけど、今の俺の耳には届かない。
–––––俺を、映してよ。
血だらけで転がってるそんなどうでもいい男じゃなくて、俺を映してよ。
その瞳に。
ねえ、蒼。俺はここにいるよ。
だから早くその目に弟の姿を映して元に戻ってよ…っ。
「そ、う……」
自分の口から無意識に紡がれる兄の名。
収まることを知らない蒼の殺気は強くなるばかり。
身体の右半身に伝わる振動は慶さんのモノなのか、自分のモノなのか。
定かではないが、
蒼がゆっくりと顔を動かしその瞳に俺の姿を捉えた時、身体がビクリと反応した。
「–––––––––っ」
身体を震わせ実の兄の存在に恐怖を感じていたのは慶さんでも謎の男でも周りの野次馬でもない。
––––––––紛れもなく実の弟である俺自身だった。
その事実がどれほど蒼を傷つけるかなんて俺は痛いほど理解していたつもりだった。
そんな顔させるために俺はここに来たんじゃないのに。
歩み寄るために来たのに。
悲しそうに笑った蒼の顔を見て目の前が絶望に染まった。
「蒼…––––––」
俺の視線から逃れるように身体ごと背を向けた蒼は謎の男と歩いてこの場から姿を消した。
「俺たちも行くぞ」
俺の身体が倒れてしまわないようにずっと支えてくれていた慶さんも歩き出す。
それにつられるように俺の足も動き出したが、行くってどこに…?
「東雲病院。蒼麻たちもそこに向かってる」
俺の心情をぴたりと読み取ったように慶さんがくれた答えは俺の足を止めるのには十分だった。
「悠麻?」
「……けない」
「あ?」
「…行けない」
慶さんだって見たでしょ?
蒼の歪んだ顔を。
それなのにまた、蒼を傷つけろって?
直接会って、また、あの心に傷をつけろって?
……そんなの俺にはできない。
できるはずないっ。
「傷つく事を恐れてんのはお前のほうだろ」
「えっ…?」
「逃げんじゃねえよ」
見上げた隣に立つ慶さんは真っ直ぐと前を向いていて。
その視線の先には謎の男と一緒に歩く蒼がいた。
