紅〜kurenai〜





赤く染まった白い服と拳


殺気立った鋭い目


周りを圧倒する威圧感



脳裏にフラッシュバックするのはあの日の光景。





1年前の夏。


真っ白のシャツを真っ赤な血に染め
怒り狂った拳さえも赤く染まり。


群がる野次馬を寄せ付けない圧倒的なオーラを放ち。


今にも人を殺してしまいそうな目。




助けられるのは俺しかいないのに、蒼が違う人に見えて震える足が言うことを聞いてくれなかったあの日。



あれから1年。


もう大丈夫だ、と思ってた。


いや違うか。



今度こそ間違えない、と言い聞かせた。



もう蒼にあんな思いさせない、と。




なのに1年前の俺が見たら笑われる程あの日の不安に呑み込まれた俺の震える足は又も言うことを聞いてくれない。




すぐ目の前にいる蒼が遠くて。


喉まで出かかった声が出てこなくて。




俺は…、俺はまた間違うのか…?


嫌だッ、もう蒼にあんな顔させたくねえんだよ。


頼むから言うこと聞いてくれよッ。



そう願うのに、不安に飲み込まれたそれの身体は震えたまま。



…誰かッ!


誰か、蒼を止めてくれ…ッ





結局、他人に頼ることしかできない自分が殺したいほど憎い。




悔しくて、自分に絶望したその時。





「蒼麻ッ!!!!」




聞き慣れた声が辺りに響いた。



弾かれたように俯いた顔を上げればそこには良く知る慶さんの姿と蒼の右手の拳をつかんでいる謎の男がいた。




視界に慶さんを捉えた瞬間あり得ないほどの安堵感に包まれそのまま地面へと崩れ落ちた。




…よかった。




かけ寄りたい気持ちも蒼を抱きしめたい気持ちもあるけど今の俺には安堵感からくる言葉しか口にすることしかできない。





「大丈夫か?」



駆け寄って背中をさすってくれる慶さんの手があまりにも暖かくて。


うっすりと額に滲む汗と少し切れた息。


走って駆けつけてきてくれたことにどうしようもなく泣きたくなった。



それと同時に、もし慶さんが来てくれなかったらと思うと怖くて仕方ない。




「立てるか?」



慶さんに支えてもらい立ち上がった俺はゆっくりと蒼と謎の男がいる場所へと距離を縮める。



蒼に殴られていた奴は顔の原型をとどめておらず辛うじて息が残っているくらいだと、だいぶ距離のある所から見てもわかるなのだから相当重症なんだろう。




「けー、東雲んとこ連れてくから車」




未だ蒼の右手を掴んでいる男が俺の隣に立つ慶さんに言った。




「既に2台呼んである」



2人とも決して声を張り上げているわけではない。



むしろ謎の男なんてダルそうにその場に立っている。



普通の声で話しているだけなのにこれほど離れた距離でも声が聞き取れてしまうのは異常なほどの静けさのせいだ。