紅〜kurenai〜





飛び込んだ瞬間から絶えず降りかかってくる拳を避け、隙をついて急所を狙い沈める。


無駄な体力を使いたくない俺はそういうスタイルでやっている。



バカ相手に何度も拳を振り下ろすほど俺の手は安くない。


そんな考え。



たぶん元から冷めてる人間なんだろうな俺って。


って思いながらいつも向かってくる相手を沈めている。



今日もその予定だった。


そうするつもりだった。



「今日こそ、お前の膝を地面につかせてやるよ」



なのに、この無法地帯の渦に呑まれても尚、身体の興奮が鎮まっていかない。


ずっと疼き続け体温が上昇していく。





ああ、あの時と、同じだ。



1年前のあの時と。



「…せいぜい頑張れよ」




–––––––––怒りで理性を失って殴り続けた結果、相手を半殺しにしてしまったあの時と。



身体の疼き方。

興奮の仕方。

身体の熱さ。



全く同じなんだ。



違和感を感じた時点で帰るべきだった。


こいつが危ない。



頭ではわかってんだよ、そんなことくらい。



そんな好き好んで相手の奴を半殺しにする奴なんて探しても見つからないに等しいくらいだろ。




わかってる…、わかってんのに夕方に帰った時の母さんの姿が脳裏にこびり付いて消えてくんねぇんだよ。



泥酔するまで呑みまくる母さんの姿が。

床に散らばるビールの空き缶が。

母さんに振り払われた俺の手が。

俺の左手を掴んだ母さんの手の感触が。

泣き崩れる母さんの泣き声が。



頭から消えてくれねえんだよ。
必死に消しても嫌という程鮮明に脳裏に焼き付いているんだよ。



そうすると嫌でも考えちまうんだよ。


あの時、手を振り払ったのは間違いだったのかって。

母さんの肩を持つわけでもないし唯一無二の存在である悠の味方であることは一生涯変わらないことだけど、どうすればいいかわかんねえよ。


心配して差し伸べた手を振り払われたのに、泣きつく母さんの手を振り払った俺の方が悪いと思えてきて嫌なんだよ。





…疲れる。



考えるのも心配するのも愛想笑いを浮かべるのも。

全てが嫌になる。



…死んだら楽になんのかな。


死んだら何も考えずに済むのかな。


そう思うと今まで理解できなかった自殺する人の気持ちがわからなくもなかった。


別に死に対する恐怖というものはない。
人間なんてどうせいつかは死ぬんだから。

その時期が早まっただけ、としか考えてない。



でも、残された悠のことを考えると躊躇ってしまうのも確か。

悠を残してこの世界からいなくなることは絶対に無理だ。


そう考えると俺の選択肢から死という選択肢は消える。




ならどうやったら楽になる?


解決の糸口が見つからない。

結局、この状況に耐えていかなきゃいけないことになってくる。



高校も大学も親が決めたところに進学して親の後継いで自分の子供にも同じ道辿らせて。


そんなの無理。


ルールでも規則でも法律でもないのに、なんで親の敷いたレールを子供が歩かなきゃいけねえのかわからねえ。







やっぱり





「…まっ!そうまっ!」




それなら一層。



「おいっ、蒼麻!!!!!」








…死んだ方がマシだ。