紅〜kurenai〜




「で、お前ら今日も行くのか?」


空だったコップに新しく水を入れてキッチンから出てきた慶さんが聞かなくてもわかる質問を投げかけてきた。



「悪い?」



まあ、この人だったら俺らがあそこに行くことを反対し兼ねない。

なんせ変なところで真面目なアホだから。


けど、止められたとしても俺らが素直にはいって頷くわけでもないし、それを分かってるからこその苦笑いだろう。




「程々にしとけよ」


「そのうち」



本当に他愛も無い会話をして俺と悠が二杯目の水を飲み終わった時、丁度良い時刻だった。






––––––––19時。




そろそろ始まる頃か…。




「…行くぞ」



3杯目の水を飲み途中の悠に声掛け席を立つ。

「気をつけろよー」なんて大して心にも思ってないことを言う慶さんの言葉を背中に受け、慶さんの経営するbar『greed』を後にした。




barを出てから右に進み更にメインストリートから離れていくと見えてくるのは広々とした廃校。


そのデカさから廃墟になる前はなに不自由のない学校だったんだろうと窺える。




「今日もやってんね〜」



この門以外に入り口があるのかどうかは知らないが、正面の校門であろう所をくぐって色んな音が木霊する廃校に足を踏み入れた。



隣を歩く悠の顔はそれはもう楽しそう。


その理由は簡単。


ここが俺らのストレスを発散する場所でもあるから。


だから俺も顔には出ないけど興奮している。
その証拠に身体が熱く疼いている。



早く、早くあの渦に飛び込みたい。


自らの手に感じる感触で快感を得て安心感を得たい。




「行くか」


「くたばるなよ?」


「当たり前」



そんな会話を交わし終えた俺たちは木霊する音の中心へと飛び込んだ。








怒声と骨がぶつかり合う音

気を失って倒れてる奴ら

目が血走っている奴


なんの意味もなくただ喧嘩がしたいが為に集う奴らの渦



––––––––『欲望の無法地帯』へ。









そこからはもう本能。


あれこれ考えている暇なんてない。


というより、考えたくない。


欲望の無法地帯というように俺らにも喧嘩する理由なんてない。


ただ、ストレスを発散するだけ。


ただ、快感を得たいだけ。


ただ、安心感を得たいだけ。



毎日毎日行きたくもない学校に通って仮面つけて気ぃ張って。

普通に会話して普通に笑って普通に過ごすことの出来ない俺らはそこで溜まるストレスを発散したいだけ。




親の地位が子供にも反映する学校で上の奴らに見下されている俺らは殴った相手が倒れる瞬間を見て快感を得たいだけ。



人を殴った時の手に感じる痛みで自分が生きているという安心感を得たいだけ。




俺らが俺らでいる為にはこの喧嘩はいつしか欠かせないものになってきた。


なんの為に勉強しているのかわからなく生きた心地がしない日常の中で、唯一この時間だけが、ああ俺、生きてるんだと実感できる瞬間であるから。


仮面を剥がした本当の俺を再確認できるから。





毎日、帰りたくもない家にワザワザ着替えに帰ってまでここに来る理由はそこにある。



さすがに名門校の制服着てこんなところに来たら世間体にも不味いし、面倒なことは極力避けたいからそこらへんは一応徹底しているつもりだ。