紅〜kurenai〜






A〜Hまでの八クラスがズラッと並んだ奥にもう一つ特別クラスが設けられている。


俺たちが今いるA組の前を通過するってことは必然的にその特別クラスの人間。



Sクラス。



それが、特別クラスの名だ。


業界内のトップクラス中のトップが集まるところ。
クラス内の苗字を聞けば、一般市民でもわかるほどだ。


例えば




––––––––篠原とか。





日本人なら一度は聞いたことある名前。
日本の経済は篠原で動いていると言っても過言ではないくらいだ。





そしてこの三ヶ月間、耳を劈くほどの悲鳴を受け続けているのが篠原のお嬢様。



女からも男からも人気がある彼女は、まさに神様らしい。


品がありおしとやかで誰に対しても優しく接する、完璧な人だと。

その上、絶世の美女だとも嫌という程俺たちの耳に入ってくる。



そんな将来有望な彼女に取り入ろうとみんな必死ってわけだ。



”名前”に興味のない俺と悠はそれを
よくもまあ、毎日毎日飽きないなと思うし毎日毎日この歓声を嫌な顔せず受け止められるなあ、と思っていつも見ている。






それがこの三ヶ月間のいつもの日常の始まりだ。






「今日繁華街行かない?」


「ヤダって言ってもどーせ行くんだろ」




廊下の悲鳴を他所に机に乗り出して提案してくる悠。


口ではそう言いつつも本当は俺も繁華街の中にしかない刺激を求めている。


まあそれに悠が気づいてるのかは知んねえけど。



”新名”として過ごす学校や跡取りとして完璧で居なくてはいけない家は窮屈でしかない。


その反面、いろんな人が行き交い業界の世界では感じることのないほどの刺激がある繁華街は俺達にとって大切な場所と化してきている。



歩いていても誰も騒がない、誰も俺達を見ていない。



本当の意味での俺達になれる其処は俺達が俺達である為に、そして俺達が”新名”である為に必要な場所だ。





「今日は何して遊ぶか〜」




放課後のことを考えている悠はいつになく幸せそう。


てか、そんなデカイ声で話したら周りに聞こえんだろうが。

此処では一応、”新名”なんだから。


こんな会話を聞かれた瞬間終わりだ。




それをわかってんのかわかってねえのか、悠は相変わらずデカイ声で今日の放課後の予定について考えている。






ま、バレても悠がいりゃあなんでもいいけど。