「悠?俺。入るよ」
一気に階段を駆け上がってきたから息が乱れる。
その乱れた息を整え悠の部屋のドアを開ける。
案の定、悠はベッドの上で丸まって泣いていた。
「蒼っ…ど、…しようっ…」
俺だとわかって顔を上げた悠の顔は本当にグチャグチャで。
「ごめっ…そ、うっ…ごめっん…」
「大丈夫。謝らなくていいから」
自分が悪いってわかってるからこそ、身体を震わせごめんなさいと訴えている悠を目一杯抱きしめる。
そんな俺の腕にしがみついてきてわんわん泣く悠を見て、俺が守らなきゃなって柄にもなくそんなことを思ったんだ。
「悠が悪いわけじゃない。みんな悪いんだ。だから誰も悪くない」
みんな同じ罪だから。
誰が悪いとかじゃない。
誰も悪くないないんだ。
それでもなお「ごめんなさい」と謝罪の言葉を紡ぐ弟に胸が張り裂けそうだった。
本当は…。
本当は、俺だって悠と同じ気持ちだ。
出来るなら、とかじゃなくて俺だって中学受験なんてもの受けたくない。
すっぽかしたい。
けれど、その本当の自分の胸の内を打ち明けられるほど俺は強くない。
悠みたいに強い人間じゃない。
笑顔貼り付けて嘘で自分を繕ってズルくて弱い人間なんだ。
「…ごめん、悠」
1人で悩ませてしまって。
1人で辛い思いさせてしまって。
『俺中学受験なんてしたくない』
…悠に言わせてしまって、ごめんっ…!
この時、俺が新名の名前なんて気にせずに胸の内をブチまけていたら悠が苦しむことなんてなかった。
笑顔を無くすことなんてなかった。
俺みたいに嘘で自分を繕って生きていくこともなかった。
無邪気で破天荒で天真爛漫な太陽みたいな悠を殺してしまったのは紛れもなく俺だ。
そんなことにも気づいていなかった俺は
「蒼がいるなら、平気っ」
「蒼が…ずっと一緒にいてくれるっ、なら、もう何でもいいっ…」
「ずっと傍にいる。俺が悠を護るから」
当然、この時の悠の言葉に隠された真意なんて見抜けるわけもなくただ腕の中で泣き崩れている弟を護ることしか頭になかった。
「強く、なろう」
この約束のせいで四年間悠が苦しんでいたことも知らずに。
昔も今も、俺は変わらない。
相変わらず、バカでヘタレで卑怯な人間だ。
