「今日は学校どうだった?」
ご飯を食べる時は決まって母さんは俺達にこういう。
ご飯の時以外は勉強をしている俺達。
そんな俺達の学校生活の出来事を聞くのはこの時間しかない。
それを俺達も分かってるから嬉しかった事からどうでもいい事まで、事細かに色んな話をする。
つまらない俺達の話にも「そっか」って嬉しそうに楽しそうに相槌を打って話を聞いてれる母さん。
学校以外で過ごす時間の中でこの時間も俺にとっては凄く好きだった。
だから今日も色んな話をしようって思うのになんでだろう?
「今日も楽しかったよ」
お決まりの言葉しか出てこないのは。
もっと他にあるだろ。
マサキ君と少し喧嘩しちゃっただろ。
ユイちゃんに好きって言ってもらっただろ。
他にももっともっと話す事あるだろ。
頭の中ではもう1人の自分がそう話しかけているのに
「今日もいつもと変わらなかったよ」
そんな中身の空っぽな言葉しか出てこない。
「そっか、今日も楽しかったのか」
ほら、やっぱり嬉しそうにするんだ。
俺のあんなに中身のこもってない形だけの楽しかったって言葉に嬉しそうな顔するんだ、母さんは。
そんな母さんを見て、罪悪感が生まれる。
12年俺の事見てきたんだから俺の口先だけの言葉に騙されるはずがない。
それなのに気付かないフリして優しく笑ってくれる母さんに後悔の念が押し寄せた。
同時に無性に泣きたくなった。
ごめん、母さん。ごめんね。
母さんの視線から逃れるように目の前に置かれている美味しそうな料理に再度箸を伸ばす。
「悠はどうだった?」
俺から悠に視線が逸れたことにホッとしている自分がいた。
だが、ご飯を食べながらホッとしたのもつかの間。
「悠?」
母さんの心配そうな声が俺の耳に届いた。
隣に座る悠から声が聞こえない。
不思議に思い顔を隣に向ければ。
悠は箸をテーブルの上に置いたまま下を向きどこか思いつめた様な顔をしていた。
「…っ」
ヤバイ、と直感で感じた。
『12年間伊達に悠の双子をやってきたわけじゃない』
『お互いの表情を見れば言いたい事はそれなりにわかる』
俺だから、今、悠が言おうとしている事がわかった。
止められるのは俺しかいない、のに。
「ゆうっ––––」
「母さん、俺中学受験なんてしたくない」
止める以前に、
何もできなかった。
その時の、母さんの酷く歪んだ顔は今でも覚えている。
”中学受験をしたくない”
その言葉は、新名の家には禁句な言葉だったんだ。
それをまだ俺と悠は知らなかった。
知っていたなら、頭のいい俺達はあんなヘマをしなかった。
