紅〜kurenai〜







–––––––四年前の冬。



俺達がまだ小6の時だ。




12月の半ばになってくると本格的な冬の寒さが身体に感じる時期。



けれど、部屋の中はそんな寒さなんて一切感じないほど暖房で温まっていた。



「悠?聞いてんの?」


「…あ、ごめん」


「はぁ、じゃあ最初からいくよ」




温かさが広がる部屋で俺達は”試験”に向けて勉強していた。


理数系の科目を得意とする俺と文系の科目を得意とする悠。


有難いことにバランスのとれた脳で、わからないところをお互い教え合いながら勉強するのがいつしか俺達のスタイルとなっていた。



そして今日もそのスタイルの如く、理科のわからないところを俺の所に聞きに来た悠。


けれど自分から聞きに来たのに俺の説明なんてちっとも聞いていない悠は上の空、心ここに在らずだ。



「悠」



先ほどよりも少し強めに双子の弟の名前を呼ぶ。


12年、伊達に悠の双子をやってきたわけじゃない。


表情を見ればお互いの考えていることなんてすぐにわかる。



けれど、今はそれじゃない。


「悠、今は”試験”のが大事」


一ヶ月後に控えている試験の最後の追い込みの方が俺達にとって何よりも大事だ。


はぁ、と深いため息をつきながらやっとペンを握った悠に再び説明を開始しようとするが



「だってさー、皆んなと離れるの寂しいんだもん」



口を尖らせている悠はまだ頭の中に”試験”という大事なものが認識されていないみたい。


思わずこっちがため息つきたい気分だよと思うが、悠が感傷的になってしまう気持ちもわかる。



十二分に。



正直、俺だって皆んなと離れるのは嫌だ。



たくさん笑ってたくさん喧嘩してたくさん泣いてたくさん仲直りして。


毎日一緒に過ごしてきた皆んなと離れるのが辛くないほど俺は冷めた人間じゃない。


けれど、


「…仕方ないよ、悠」


仕方ないんだ。


どうやってもこれは俺達じゃどうしようもない事なんだ。



「わかってるんだけど、何だかな〜」



床に置いてあるローテーブルで勉強している俺達。
そのローテーブルを挟んで正面に床に座っていた悠はそのまま後ろに倒れラグの上に寝転ぶ。


その声は、先ほどよりも若干落ち込んでいる。



わからないところ、説明しなくていいの?


その言葉を飲み込んで腕を広げ寝転ぶ悠に苦笑した俺はベットの横にピタリとくっついているサイドテーブルに目を向けた。



きっと、悠は俺に教えてもらわなくたって理数系の科目も出来ちゃう。



そんな事を思いながらサイドテーブルに置いてある”モノ”を眺める。




アレを見るたびに今の悠と同じ様な気持ちになり、一瞬自分のやらなくてはいけない事を忘れてしまいそうになる。



そんな自分に言い聞かせる様に呟く。













「仕方ないよ、中学受験は避けられない」




俺達が今こんなにも勉強しているのも

悠が皆んなと離れるのを嫌がるのも


何とも言えない気持ちに駆られるのも






一ヶ月後に控えている”試験”……都立K高等学校附属中学校の入学試験のせいだ。









できる事なら俺だって受けたくない。






でも、どうしようもないんだ。
決められた道を歩く事しかできないんだよ、俺達。





















–––––––”新名”に産まれてきた以上は。