「あのさ」
「…とっとと寝れば?」
俺の声色が最初の頃と比べて幾分と柔らかくなっているのに気付いているはずなのに変わらず冷たく無機質な声で淡々と返してくる彼女に思わず笑みが零れる。
…俺って女に対してこんなにも穏やかな声で話せる奴だったっけ?
女に対してこんなにも優しい笑みが出てしまう人間だったっけ?
違う。
女を人間として認識せず、視界に入ることを許さないそして殺したくなるほど憎い生き物だと認識している。
それが、新名蒼麻だ。
その俺がねぇ。
たった一言でこんなになっちまうなんてな。
笑わずにはいられない。
自分でも驚愕するほどの変化なんだから。
彼女はきっと、知らない。
いや、絶対に知りえないだろう。
その変わらない彼女の態度が俺のズタズタの心の傷を少なからず癒してくれている、ということに。
本人の言うように俺達の地位にも名前にも、ましてや獅子というブランドにも興味がなく俺達にどう思われようと関係ないという彼女は、そんな事にはこれから先おそらく一生知るはずがない。
彼女らしいと言えば彼女らしい。
が、彼女だからその事を知ってほしい。
そう思う自分もいる。
どっちだって良いのに。
教えたって「あっそ」興味ないという返事が返ってくるのも目に見えてわかりきっているのに。
あー、もう。
ホント、調子狂う。
けれど、その狂い様、べつに嫌じゃないと思っている自分に呆れるほどだ。
だからなのか?
そんな彼女に、知ってほしいと思うのは。
今の俺を造り上げた、過去の俺を。
今の俺達を造り上げた、過去の俺達を。
一つだけ確かなことは。
サクラだから、俺のこと、俺達のことを知ってほしいと思う。
話したいと思う。
「俺さ、この時期になると必ずと体調崩すんだよね」
–––––––少し、昔話をしようか。
