「私がここに居る理由はアイに頼まれたから。それ以上でもなければそれ以下でもない」
無機質な抑揚のない声で目線を本に戻しながらそう淡々と答える女。
それはまるで、俺が不安がらないようにただそこに居る訳でも俺に気に入られたいからここに居る訳でもない。
あくまでアイに頼まれたから。
勘違いはしないで。
そう言っているように聞こえる。
きっと、そんな言葉を仁人達に言われたらあり得ないくらい落ち込んで今度こそ立ち直れない所まで堕ちて行くと思う。
それは俺が彼奴らを信じてるから。
信じてるからこそ言葉というものは時に凶器になりその人の人生を狂わせる。
けれど俺とこの女の間にそんな感情や信頼関係なんて皆無だ。
だからそこその突き放した言葉と多少優しさある行動が俺にとっては有難くてちょうど良い距離感だったんだ。
その主張しすぎない存在感が弱ってる俺に安心感を与えてくれたんだ。
自分でもバカな話だなって思う。
この世で1番嫌う生き物に対して安心感を覚えるなんて。
消えて欲しいと願っていた生き物に対して有難いなんて思うなんて。
『仁人を支えてあげて』
あの日あの女がそう言った時から他の奴とは違えんじゃねえかって薄々感じてたけど、それが今確信に変わろうとしている。
「なあ」
ベッドに寝っ転がり寝る体制のまま発した声は1番最初に発した声よりも随分と穏やかな声だった。
問いかけに対する相槌も答えは返って声ないけど多分聞いてくれているからそのまま続ける。
「なんであの時、後ろ向いてたのに悠麻だってわかった?」
俺と悠麻が並んでマリオのステージをクリアしようと全力を尽くしていた日。
自分で言うのもなんだけど、一卵性双生児だった俺らは成長した今でも瓜二つの顔を持っている。
悠麻の方が多少タレ目ってとこくらいしか違いがないくらいに。
そして服装もピアスの数も空け方も髪型も髪色も全て一緒。
後ろから見たら瓜二つなんてもんじゃない。
同一人物だ。
あの女の言葉を使うならドッペルゲンガーってやつだ。
それなのにあの時あいつは迷う事なく悠麻の後ろに立ち悠麻に向かって『学校で話しかけないで』と言った。
限りなくドッペルゲンガーに近い俺たちをどうやって見分けたのか。
それがあの日から気になって仕方がなかった。
勘、って言われたら俺も何も言い返せないけどな。
それはそれで良いのか。
変に気を許さなくて済むからな。
