紅〜kurenai〜





「勝手に入ってくんじゃねえよ」


勝手じゃなかったとしてもお前なんかを俺のテリトリーに入れるわけねえけど。


ドアの前に腰を下ろし本を読んでいるそいつは一旦顔を上げ唸る俺を一瞥すると再び手元の本に視線を戻した。




まさに、我関せず、って感じだ。



いやいや、ここ俺の部屋だから。



「出てってくんね?」



何でこいつと同じ空間にいなきゃいけないのか。

何でこいつがここに居るのか。

何でこいつがいる部屋で寝なきゃいけないのか。



考え出したらキリがない。


とりあえずこの部屋から出てってもらいたい。そんでもって一生この部屋に近づかないでもらいたい。



じゃないと相手が女であろうと手加減できない。


きっと殴り倒してしまう。




そんな事したらこの女が可哀想っていう以前に俺が仁人達にボコられる。

俺の言う手加減なしって程の力で。



だから一刻も早くこの空間から消えて欲しいのに、聞こえてないのか無視しているのか。

黙々と本を読む女に軽く殺意が湧いた。



「おい、聞いて–––」


「弱ってる時ってさ、」



再び発した俺の声を遮ったそいつは未だ目線は本の中。

思わず「は?」と反応してしまう。




「側に人が居てくれると落ち着くんだよね」


「…っ」




変わらず冷たい声で発せられたその言葉に俺の心臓が変に暴れ出し、わけのわからない汗が噴き出してくる。




…な、んでっ。



そう思わずにはいられない。


理由は簡単。


俺の心の中をピタリと当てられたから。


今まで俺が弱っていると必ず悠麻が側に居てくれて、起きた時も1番に悠麻の心配そうな顔が視界一杯に広がる。


心配かけてゴメンとかもう大丈夫とか確かに色んな気持ちが湧き出てくるけど、起きた時に側に人が居てくれる安心感に勝てるものは何もない。



それをこの女もわかっているっていうのか。



……だからここに居るのか?



はっ、まさかな。


頭の中では都合のいいように自分が傷つかないように解釈しているけど、女嫌いの俺からしたらその優しさも要らない優しさだ。



だからもう一度、ここを出て行けと言おうとしたのにまた先を越された。





















「それが、例え心の底から嫌いな奴だとしてもね」






先ほどの声よりも更に低く淡々と発せられた声は、今まで生きてきた中で聞いたこともない程に冷めた声に。





この部屋で初めて合った女との視線。






思わず身体が震えた。

冷房の効き過ぎか?って程に身体中に鳥肌がたった。





何も映さないその漆黒の瞳は冷酷で、目だけで人1人を殺してしまいそうなほど鋭かった。























………コイツは、誰だ…?