《蒼麻 side》
「…んっ」
息苦しさと身体の熱さに眠っていた意識が現実へゆっくりと引き起こされていく。
それに逆らうことなくゆっくりと目を開ければもうすっかり見慣れ馴染んでしまった天井が視界に入ったと同時にスプリングのよくきいたベッドがギジリと音を立てた。
夏真っ盛りの季節であってもこの部屋の中は程よく冷房が効いている。
だから仮に汗をかいたとしても少量だろう。
なのに大量の汗を吸いこんだ自分のシャツが身体に張り付いて気持ちが悪い。
この時期になるとどうも体調を崩す俺。
理由なんて考えなくてもすぐ分かるのにそれを認めたくない俺はここ最近この体調の悪さを風邪だと思わないようにしてきた。
他の人が聞いたらただのバカだと思われるけどそう思わないと俺が俺でいられない。
けれど、起きた時の身体の熱さ手足の痺れ頭の痛さ息苦しさ。
自分の起きた時の症状は嫌でもあの日を思い出させる。
嫌でも、この体調の悪さはあの日が原因だと思い知らされる。
もう、何年目だろうか?
夏真っ盛りのこの時期にどうしようもなく切なくなって悲しくなって、同時に殺したくなるほどの感情が沸き上がり熱を出すのは。
いい加減俺の中から消えて欲しい。
そう毎日のように願っているのに俺の意思に反するようにあの頃よりも傷が深くなってる。
その理由も何となくわかる。
きっと、目の当たりにしたからだ。
女の俺に対する見方、っていうのを。
「……吐きそ」
考えただけでも吐き気を催す。
この世から女が1人残らず消えて欲しいと思わない日は一度もないくらい。
自然と左手に力が入るのを自分でも感じた。
そこでふと、気付いた。
いつも感じる左手の暖かい温もりが、今日はない事に。
正直気づきたくなかった。
いつもは俺が弱っていると必ず悠麻が側に居てくれるんだけど今日は居ない。
いや、今年は居ない、の間違えか。
全部あの女のせい。