「お粥でいっか」
いらねえ、と言われたけどアイに看病よろしくと頼まれた以上はしないわけにはいかない。
冷蔵庫の横にあるお米の袋から2合分を取り出しお釜に入れスイッチオン。
その間に部屋を出てバルコニーまで行く。
そこからは一階の倉庫全体が見渡すことができ、頭の中にいる人物を探すため目を動かす。
…あ、いた。
「慶太!」
ちょうど隅の方で数人が固まってバイクをいじっていた。
そんな慶太に呼びかけるけど広い倉庫の中では私の声は慶太に届くことはなく中々こっちを向いてくれなくて困っていた時、たまたま近くにいて私の声が届いていた子が慶太を呼んでくれた。
その子にありがとうという意味を込めてペコリとお辞儀をしたら、慌てて両手と顔を横に振られてしまった。
……ああは言ったもののやっぱり難しいか、倉庫に入り浸る女としてみてもらうのは。
「サクラちゃん!」
私も私で苦笑しているとその子と入れ違いで軍手をはめた慶太が奥からやってきた。
「どうしたの?!」
私から呼ばれることを想像していなかったのか酷く慌てた様子の慶太に小さな笑みが零れる。
そんなに心配しなくても何もないのに。
そう伝えれば強張っていた顔はホッとしたようにいつもの慶太の顔に戻った。
けど次にはじゃあなんで俺を呼んだの?っていう顔をした。
コロコロ変わる慶太の表情が面白くてついつい弄りたくなってしまう。
何も喋らなかったら慶太はどんな反応をするのか?
きっと……
「さ、サクラちゃん…?」
うん、期待通りの反応だ。
何も喋らない私を見てオロオロし出した慶太が可愛いと思うと同時に羨ましいと感じた。
––––––––感情を素直に表せて。
「サクラちゃん本当に大丈夫?」
本気で心配した慶太の顔が下から私を見上げる。
これ以上心配かけさせるわけにはいない…と言うよりこれ以上弄ったら慶太が可哀想だからこの辺にしておこう。
「蒼麻の部屋、どこかわかる?」
「蒼麻さんの?」
「うん、アイに看病よろしく頼まれたから」
私の言葉を聞いた後、驚いたように目を見開く慶太。
私が他人の世話をするのが意外で驚いているのかそれともアイが私に頼んだの–––––
「蒼麻さん風邪ひいてるんっすか?!」
…どうやら私の予想はハズレた。
