紅〜kurenai〜




仕方ない、看病してやるか。


起きてきたらだけど。



「よっこらせ…」



ソファーに寝転んでいた状態から上半身を起こして伸びをすれば背中の骨がボキボキと音を立てた。

うわあ、だいぶ凝ってるなあ。


多少、身体に怠さが残っているのはきっといつもフカフカのベッドで寝てる私が身動きできない狭いソファーで寝てたからだ。




「あれ?」



起き上がった反動でソファーの下に落下したのは見慣れない毛布。
拾い上げると鼻を掠める毛布から微かに漂うシトラス系の香水の香り。




……仁人のだ。




確かにこの冷房のきいた部屋で寝れば起きた時身体が冷える。
そう思うと気を遣って掛けてくれた事に感謝するけど、同時に香水の香りだけでわかってしまうほど近くにいるんだと改めて実感してしまう。




「はぁ」



誰もいないそこに私のため息がやけに響く。

こういう空間で1人でいるのはいつまで経っても慣れない。

慣れなきゃいけないのはわかってる。

けど、あの時。

アイと仁人がここを出て行く時、思わず「行かないで」って言いそうになった自分がいたんだ。




「はぁ…」




口からはため息しか出てこない。

5時まであと4時間。


誰もいない空間で過ごす4時間はとても長く感じてしまう。



…下、行こうかな。



きっと慶太達いるよね?
朝日は煩いからいない方が嬉しいかも。



そう思い立ち上がろうとした時。



「おい」



後ろからあり得ないほどの殺気が籠った声が聞こえてきた。

まあこの部屋に入れる人は限られているし、その上私と奴以外はみんな外に出てるから必然的に声の主を見分けることができる。




「なに?蒼麻」




きっと別室で寝ていたであろう蒼麻が立っていた。


どうやら看病しなきゃいけなくなってしまったみたいだ。


アイが風邪で寝込んでいると言っていただけあってドアの横の壁に背を預けて立っている蒼麻の顔は赤くしんどそう。


てかまずこの時期に風邪引くって珍しいもんだ。
季節の変わり目とかならわかるけど、今の時期は季節も変わり目でもなければ空気が乾燥してるわけでもない。

ただの真夏だ。




「なんでお前がそれを持ってる?」



季節外れの風邪を引いている蒼麻の目は私が持つおそらく仁人の私物であろう毛布に向いている。



なんで持ってるって聞かれても私がこれを持つ事になった経緯はアイと仁人しか知りえないし


「起きたら掛けてあった」


ただそれだけ。