《サクラ side》
「…きろ…起きろ」
んっ…?
誰かに身体を揺さぶられゆっくりと目を開けた。
定まらない視線で周りを見渡せば少しは見慣れてきた自分の部屋ではなくて見知らぬ部屋にいた。
…ここ、何処。
頭で確認するよりも隣から聞き慣れつつある声が私の名を呼ぶほうが早かった。
声の辿って顔を右にズラせば声の主が見えた。
「…仁人」
そしてその奥にはアイがいた。
そう言えば倉庫で寝ちゃったんだっけ?
今自分が置かれている状況に理解したところで壁にかかっている時計で時刻を確認すれば、もうそろそろ1時間半が経とうとしている頃だった。
「出かけてくる」
「…?」
覚醒しない頭で仁人の声を聞き取り頭の中で理解するのは少々時間を要す。
アイは何処かに電話をかけ「今から行く」などと相手に伝えている。
そこで初めて、「ああ、出かけるのね」と仁人の言っていた言葉を理解した。
「行ってらっしゃい」
欠伸を噛み殺しながらそう言えば何故か仁人に睨まれた。
その後ろでアイは苦笑い。
『…アイ?』
「あ、悪い」
此方を見て苦笑し電話の相手のことを忘れていたアイが右手に持つ携帯からは男子高校生にしては高く聞き慣れた声が聞こえてくる。
どうやら電話の相手は悠麻だったようで、朝ぶりに悠麻の声聞いたなあなんて呑気に考えていた。
「仁人、時間だ。行くぞ」
電話を終了したアイの仁人を見る目が若干怒りに染まっているのは間違いじゃ無いだろう。
いつまでたってもソファーから動かない為、最終的に余り出かけることに乗り気で無い仁人を強制的に連れ出そうとする。
「5時くらいには帰ってくる」
私にそう伝えながらも仁人に早く来いという鋭い目線を投げるアイさん。
たぶん、仁人をこんな扱いできるのってアイだけな気がする。
だからなのかアイが副長やってることに妙に納得してしまうんだ。
渋々動き出した仁人の顔は至極面倒くさそうだ。
まあそんな仁人に目もくれずにアイは連れだしていくんだけど。
「あ、そうだ。蒼麻が熱で寝込んでるから起きたら看病しといて」
部屋を出て行く直前にハタと思い出したようにそう言うアイだけど、今まで忘れてたのかよって突っ込みたくなった。
そもそも、女を死ぬほど毛嫌いしてる蒼麻の看病を私に任せることから間違ってると思うんだけど。
この2人が出かけたら私と蒼麻以外ここの階には居なくなるから必然的に私しか看病する人いないけど、今の今まで病人の存在を忘れてたくせに思い出したと思ったら人任せか。
それも病人が最も嫌う女という生き物に頼むのか。
……なんて薄情な奴らだ。
そんなことを考えているうちにアイと仁人は出かけに行ってしまった。
