紅〜kurenai〜




「暴れんじゃねえぞ?全員撒け。それまで帰ってくるな」


『ちょ、アイ–––––––』




電話越しでも伝わるアイから放たれる殺気にたじろぐ悠麻を完全に無視しそれだけ言って通話を強制終了させたアイ。


こっちだって暇じゃねえんだよ。



アイの表情が明らかにそう言っている。





だが、窮地に追い込まれる仲間を見捨てるほど廃れた副長でもなければ友情関係でもなければない。



「1時間だな」



ため息まじりに吐き出された言葉は先ほどまでの怒りなど感じず呆れたような声だ。



悠麻たちの限界が来るまで1時間。

別に助けに行かなくとも彼等なら逃げ切れることはできるだろうけど、その後の彼等からの避難の目を考えると行った方がいいに決まってる。


特に寛人なんて根に持つタイプの人間だからいつ仕返しされるかわからない。



それに暴れるなと忠告はしたけど気の短い辰が居るからその忠告を守れるのかが危ういところだ。
辰が暴れれば必然的に悠麻も暴れ、しまいには寛人まで…といき兼ねない。





きっと必要品の買い物も終わってないだろうし、そうなってくるとやはり後々困ってくるのはアイたちだ。



手を貸しに行った後皆んなで買い物して帰って来れば時間も短縮になるだろう。



そうアイが頭の中で1時間後の予定を立ててる時だった。



アイの耳に悪魔の囁き的なものが聞こえてきたのは。




「1時間半でいい」


「…まじで言ってんの?」





気が短い辰が暴れるのを見越して計算した時間は1時間でもギリギリだ。

それを更に30分伸ばすという仁人。





アイの計算では30分伸ばすと確実に不機嫌オーラMAXの3人を相手にしなきゃいけなくなる。


仁人は何言っても聞かないし効かないから最終的に全ての不満がアイに降りかかる。



それが3人分……アイにとっては地獄でしかないだろう。



そんな数時間後の自分を想像し可哀想に思えたアイは1時間にして貰おうと仁人に言おうとするが、口角を上げニヤリとしているその表情を見て諦めた。




もう意見を変えることはない、と悟ったからである。





「大丈夫だ、心配ない」





堂々と言い放つ仁人にいつもなら安心感を覚えるアイだが今日は安心感なんて以ての外、どこからその自信が湧いてくるのだ、という疑問しか残らなかった。




けど未だ眠っているサクラの寝顔を眺める仁人を見て、アイは確信した。







30分伸ばしたのはアイに地獄を味あわせるためでもなくあの3人を試しているわけでもなく


コイツただ単にサクラの側にいたいだけだ。


ということを。





アイの口からため息が出たのは言うまでもない。





客観視点 side end