紅〜kurenai〜






「なんだよ」



鳴ったのはアイの携帯だった。


至極面倒くさそうに電話に出たアイは怠そうな声とは裏腹に顔は至って真面目に先ほどのA4判の紙を見つめている。




そんなアイをチラリと一瞥した仁人は再び手元にある雑誌へと視線を戻した。




ふぁっ…



やはり朝早くから起こされたことが身体にきているため欠伸がとまらない。



「眠いのか?」



雑誌を見たままの仁人が私に問いかけるがその時にはもう既に半分夢の世界へと旅立っていたようで曖昧な返事しかできなかった。




少ししてから冷たい空気が纏わりつく私の身体に心地よい温かさが落ちてきたのと同時に私の記憶はそこで途切れた。























《客観視点 side》






「寝たのか?」


「ああ」



いつの間にか通話を終了していたアイが寝室から持ってきたであろう自分の毛布を寝ているサクラの身体に掛けた仁人に聞く。



自分が使っている物を他人に、それも女に掛けてやるなんて今までの仁人じゃあり得ない。


ましてや女に対してこんなにも穏やかな表情を見せた事は未だかつてあっただろうか?



その答えは勿論NOだ。


こんな優しい雰囲気を纏う仁人は過去に存在したかなんて考える必要もないくらいすぐに出る答えだ。






「悠麻か?」


変わらぬ表情で彼女を見つめながらアイに問いかける。


口数少ない仁人が相手がわかりやすいように主語述語を使ってちゃんとした日本語を話す筈もなく、単語で聞く。


慶太達同様、長年一緒にいるアイには何のことを言っているのか当然理解できている。




「ああ。絡まれた、だとよ」



さっきの悠麻からの電話の内容を思い出すが、そんなことで一々電話してくるなと言いたげなアイの表情。

それには仁人も何も言えないようで…。


「女か?」


「…両方」



再び至極面倒くさそうな声を出す。
さっきと違うのは表情までもが面倒くさそうにしているところだ。





悠麻と辰と寛人の3人で近くにあるデパートまで出かけたら獅子の幹部だと気づかれ、女に追いかけ回されるわ、何処からか聞きつけたチンピラ共が喧嘩を売ってくるわ。


獅子の幹部、新名悠麻からかかってきた電話の内容はこうだった。



『ねぇ、アイ!女がウジャウジャいるんだけど!!』


『男も同じくらい居るけどな』


『そう、クズ共もウジャウジャ集まってきてるんだけど!』



聞こえてきた悠麻と辰の声にアイは思わず電話を切りたい衝動に駆られた。



コイツは馬鹿か?

それを報告して何になる。
助けろって?



アホか。




アイはそう思わずにはいられない。


今ここでアイたちがそれを助けに行ったって余計酷くなるだけだ。

総長と副長がお出ましだなんて抗争か暴走の時くらい。



こんな何もない日に総長と副長だけじゃなく、幹部まで揃ってんだから更に女も男も増えるに決まっている。




単細胞バカの脳みそではそんなこともわからないようだった。