「仁人達は私を姫にすると言うけどさっきアイが言ったように、私は姫になるつもりはない」
その冷たく抑揚のない声のまま話し始めた。
彼女は姫になるつもりがないと言い張るけど、”仁人” ”アイ”と呼び捨てで呼ぶ事を仁さん達が許している時点で彼女はもう逃げ出すことは出来ないと思う。
例え逃げたとしても捕まえられるだけだ。
「なりたくない理由を強いて言うなら、貴方達が大っ嫌いだから」
随分とバッサリ言うもんだね。
まあ無駄に媚び売られるよりかは何十倍もマシだけど此処まではっきり言われるのも何だか癪だ。
大っ嫌いなくせに何故今この場にいるのか。
それはとても簡単なことだった。
仁さん達との賭けに負けた。
ただそれだけだった。
一体どんな賭けをしたんだって気になったけど仁さんと賭けだなんて負けに行くようなもんだ。
あの人は恐ろしいくらいの確率で賭けに勝利する。
現に、この中で過去一度でも仁さんと賭けをして勝った人なんていない。
賭けに負け大っ嫌いな人達と一緒にいる彼女の心境とはどんなものなのか。
彼女のする挨拶とはどんなものなのか。
少し、興味が湧いた。
「私は貴方達に認められたいなんて思ってない。だから仁人達が認めたから貴方達も認めるなんて事しなくていい
命懸けで私を守る事なんてしなくていい。守られるつもりなんてないし自分の身は自分で守る。
だから自分の身の安全を第一に考えて、そして私よりも貴方達が尊敬してやまないこの人達を命懸けで守って」
彼女の後ろにいる仁さん達に一瞬だけ目を向けそう言う彼女の言葉はやはり俺が想像した物よりも遥かに上をいっていた。
……こんな女、初めてだ。
仁さん達の女でも特別な存在でもねえのに俺ら下の奴らに「私の事守りなさいよ」って顔で見てくる奴なんてそこら中に大量に転がっている。
俺らの周りにはそんな奴らしかいなかったし、そんな奴らだけだから期待するなと自分に言い聞かせていた。
けど、いた。
真面目な子がこんな不良の世界に勝手に引き摺り込まれて来たっていうのに、守らなくていい、私よりも自分自身、そして仁さん達を守れと口にする。
俺らの気をひくためとか計算された言葉なんかじゃなくて、ただの本心でそんな事言う事のできる女は、彼女の容姿同様どこ探し歩いてもそう簡単には見つからないだろう。
そんな珍しすぎる女の子を仁さん達が連れてきてくれた事に少なからず俺は喜びを感じていた。
「最後に一つだけ」
挨拶も終わりに差し掛かったところでそう前置きをした彼女の声が少しだけ優しくなったと感じたのは俺だけか?
スッと目を閉じ、次に放たれた言葉に俺は『この人だ』と確信を持てたんだ。
「仁人を、支えてあげて」
「…っ」
