「はいはい、静かに。騒ぎたい気持ちもわかるけど、そろそろ姫さんが無駄に媚び売る普通の女に変身しちゃうからもう少し我慢して」
手を叩きながらその場の興奮を鎮めてくれたのは寛人さんだった。
アイさんも寛人さんも本人が姫ではないと言い張るのにそれを認めないとでもいうかの様に”姫”を強調する。
それに気づいているのかそれとも今のツッコミどころ満載の寛人さんの言葉に不満を感じたのか彼女の周りの温度が少し下がった気がした。
……ああ、もしかしてこの人も寛人さんタイプの人か?
探る様な目で下から彼女を見上げるけどわからなかった。
眼鏡に顔の大半が隠されてしまっているからという理由でもあるけど、わからないと思った決定的な理由は感情が一切顔に表れなかったからだ。
人間いくら無表情でも多少は顔に出る。
口角が上がったり眉が動いたり、と。
仁さんが良い例だ。
けど彼女はそれさえもなかった。
一定のまま何も変わらないままだった。
まあ眼鏡をかけているから口元しか見えないんだけどね。
眉は前髪で隠されているし頬はお下げで隠されてしまっている。
ビン底眼鏡に顔の大半が隠されるってどんだけ顔小せえんだって思うけどパッと見本当に小さい。
俺の片手の大きさに治るんじゃねえか?とさえも思う。
……さすがにそれは無理か。
彼女を下から見上げながらそんな事を考えていれば再び倉庫内に訪れる静寂。
「一言」
仁さんから言い渡された任務はこの静寂の中での挨拶。
此処にいる約200人以上もの視線が彼女に向けられた。
その視線に怯むことなく真正面から受け止め一歩前に出るその姿は彼女の側に立つ幹部の人達と同じ様に堂々としていた。
「霜村サクラです」
俺たちに向かって深々と頭を下げる彼女の声はさっき聞こえた鈴の音のような可愛らしい声ではなく、酷く冷たい声だった–––––––––
