紅〜kurenai〜








その子が前に出たのを確認した仁さんの声が再び倉庫内に響いた。






「コイツが獅子総勢で守る奴だ。いずれ獅姫になる」







ゴクリ。



俺の周りで生唾を飲み込む音が聞こえてきた。





って、ちょっと待ってくださいよ。



獅姫になる事ってもう決定事項なんじゃないんすか?



寛人さんは『総長の溺愛姫のお披露目』って言ってたのに何で”いずれ”獅姫になるって…まだ獅姫になってないって言っている様なもんだ。





そう思った時にはもう既にその疑問を口にしていた。




目敏いなお前、って顔をするアイさんに一瞬やべえやらかしたと思ったけどきっとこの疑問を感じたのは俺だけじゃないはずだ。


今は疑問に思わないにしても、時間が経つにつれて冷静さを取り戻した頭で考えればすぐに気づくはずだ。








そんな俺らの疑問に答えてくれたのは仁さんじゃなくてアイさんだった。








「ウチの姫さんは自分から姫を願い下げしちゃう変わりもんだからな」



「だから私は姫じゃないって言ってるでしょ」




横目で隣にいる女の子を見ながら呆れた様に言った。

そんなアイさんにすかさず喧嘩腰で返した彼女の声は鈴の様な高い声だった。


そしてその鈴の音の声はあまりに小さく1番前に立ち彼らとの距離が1番近い俺と朝日にしか聞こえていないと思う。






が、今の俺らにはそんな事はどうでも良くて。




ただただ驚きが隠せない。








「姫になるのを願い下げって事は仁さんの彼女になるのを願い下げって事だよな…?」







そう、誰かが呟いた。






まじ、かよ…。






寛人さんに『我らが総長の溺愛姫のお披露目だ』と言われた時よりも頭が真っ白だ。




だって…



「普通の女なら喉から手が出るほど欲しくて仕方ない肩書きなのに…」




そう、今まで何度も見てきた。

仁さん達に付きまとい恰も自分が彼女ですという面して歩いてる女達を。




仁さん達が選んだ人だからそんな奴と同じ様な人ではないと思ってたけど、俺らの予想を超えたっていうか何ていうか…




まさか、姫になる事までも願い下げするとは思ってなかった。






次第にザワつき始め騒がしくなる倉庫内。

それを鎮めるのは本来なら俺と朝日の役目だ。

けど、衝撃がでかすぎた。



ただ何もできずボーッと突っ立ってる事しか出来ないほどの衝撃だった。