俺にも消したい過去や思い出したくない過去があるように寛人さんにだってそういう過去が一つや二つあるに決まってる。
そうじゃなきゃこんな所で幹部なんて勤めていないだろう。
それも関東統一を成し得た暴走族の幹部なんて。
だって、寛人さんは––––
そこまで考えて、やめた。
人の過去をいくら詮索したって本人から聞かされない限りそれが真実なのか偽りなのかもわからないから。
そして寛人さんの過去の事への詮索を停止した頭で先ほどの『今までで、慶太達が出来ないような頼み事したことあった?』という寛人さんの質問の答えを出すためにここ半年間突っ走り続け時を振り返る。
「……ないっすね」
過去に寛人さんからの頼まれ事を全て思い返してみたけど、俺らが不可能という結果に終わったことはない。
ホントこの人には敵わない。
俺らの能力を寸分の狂いもなく把握してそれに見合う仕事を分け与え情報を提供するところ。
––––––敵に回したくねえ。
そう思わずにはいられない。
「じゃあ、ショーの始まりと行きますか」
そう呟いた寛人さんの口元はひどく歪んでいた。
その事には敢えて突っ込まず、そのショーとやらの事について少し聞いてみた。
けど寛人さんから帰ってきた答えは思わず耳を疑うような答えで暫く反応できなかった。
それは隣にいた朝日も同じだったみたいで、2人とも我に返ったときには既に寛人さんは幹部室へと繋がる階段を登り始めていた。
「時間だ。配置に戻れ」
こちらを振り向かず歩きながらそう言う声は先程までのふわふわして掴めない様な感じのモノではなく、獅子の幹部としての威厳ある覇気を纏った声だった。
悠然と階段を上るその後ろ姿に一礼し朝日と配置に戻った。
配置に戻ってからも頭を支配するのは寛人さんのさっきの言葉。
自分で言うのも何なんだが、生まれてこの顔、不自由はして来なかった。
それは隣にいる朝日も同じで。
その上、美形揃いの獅子に身を置いているからこそ俺らにしかわからない苦しみがある。
ひょっとすると、ここにいる半分以上の奴らは常日頃から感じているだろう。
俺らでこんだけ感じてウンザリしているんだから幹部の人達なんてその空虚感といったモノは俺らの比にならないくらいだろう。
特に、仁さんは。
だから俺らの代では唯一無二の存在は現れないだろうと思っていたけど、まさかこんな形で現れるとはね。
『我らが総長の溺愛姫のお披露目だ』
再び寛人さんの言葉が脳内に木霊する。
この世界に、俺らを見てくれる人はいないと思っていた。
仁さん達が選ぶ唯一無二はいないと思っていた。
どうやら俺の考えは外れた様だね。
––––––––たった1人、存在したんだ。
なんの偏見も持たず接してくれて俺らの地位にさえ興味を示さなくて、寧ろ俺らのことを毛嫌いしていて。
この子なら仁さん達を救ってくれると初めて思えた小さく儚げな女の子。
女に対してなんの嫌悪感を抱かなかったのはあの子が初めてだ。
『仁人が、幹部の皆様方が、とかじゃなくてさ、
貴方達は貴方達でしょ』
そう言う彼女の言葉に俺らまで救われるとはこの時、思いもしなかったんだ。
