紅〜kurenai〜






「乗れ」


仁人が跨るバイクに近づいた私に乱暴にメットを投げ付けるとそう言った。



それが女に対する扱いかって言いたいところだけど、こんな暑い中言い合いする気にもなれないから大人しく従った。





珍しく従って仁人の後ろに乗ったのにも関わらず、中々発進しようとしない仁人を不思議に思い声をかける。




「乗ったことあるのか?」




が、かける前に質問された。



乗ったことあるのか?って…


…バイクに?




「さあ?」




–––––––ある。それも何十回と。



下手したら何百回か。




「知りたきゃ自分で調べな」




それだけ言ってシートの後ろの部分を掴み体制を整える。


きっと出てこないだろうけど。



「フッ、上等だ」




後ろを振り返り私に向かってニヤリとした笑みを浮かべた仁人は見なかったことにする。




けど、なんで今更そんなことを聞くのかと疑問に思ったが考える間も無く謎が解けた。














仁人が自分のバイクで私を迎えに来たのは初めてだ。



アイと帰るときはいつもバイクだけど、仁人の時は絶対にあの黒塗りの静かな高級車だった。






右折のウインカーを点滅させコンビニから大通りへと合流するタイミングを見計らっている仁人に尋ねた。




「なんでバイクなの?」





なんとなく、いや、かなり気になった。



もし、仁人じゃなくて寛人が毎回私を車で送り迎えしていたのに何の前触れもなく今日の仁人みたいにバイクで迎えに来たとしても何も思わない。



けど仁人だとそうもいかない。



関東統一を成し遂げた獅子の総長である仁人だからこそ疑問に思うんだ。





関東統一を成し遂げたくらいだから当然仁人の顔は全国区で知られていると言っても過言ではない。



そんな仁人と女である私が一緒にいるところを敵対している奴等に見られたら終わりだ。


いくら私が瓶底メガネをかけ今時考えられないお下げ髪姿で素顔がわからないとしても、この世界ではトップ取るためならどんな卑怯な事をする奴等がザラにいる。


何としてでも私を獅子を崩すための餌にするだろう。




私でさえそんな事は安易に想像がつくくらいだから獅子を背負う仁人だって少し考えればわかることだ。




自分たちが姫にすると言い張り守ると口にした仁人が好き好んで危険な渦に飛び込むような事はしない。

顔が晒されるバイクで私を迎えに行く事はしない。

バイクだけで仁人だと特定されてもおかしくないような手段で私を送りに行く事はしない。





だからいつも外から中の様子が見えないようスモークがかった黒塗りの車で私は送迎されるんだ。



自分で言うのも何だけど、仁人達は仁人達なりに私を危険な目に遭わせないよう細心の注意を払ってくれている。





だからこそ、バイクで来ることが危険だと1番よくわかってる仁人が何故バイクで来たのかが不思議でたまらない。