紅〜kurenai〜





「10時ってあと2時間半しかないじゃん…」




極度の低血圧な私の朝はベッドから出るまでが長い。




酷い日は起き上がるのに30分もの時間を要す時がある。






けど、今日は朝からかかってきてほしくなかった電話のせいである程度頭が覚醒しているためベッドでゴロゴロする事もなく、ベッドと時計、それからクローゼットしかない殺風景な寝室を後にした。









向かった先は、リビングではなく脱衣場。



夏で冬でも朝イチでシャワーを浴びなきゃ私の1日が始まらない。























「っくしゅん」



冷水を浴びてスッキリし目が覚めたのは良いが、起きた時のまま冷房をつけっぱなしだった寝室の温度は冷え切った身体には少し肌寒かった。






凍える身体を摩りながらベッドの脇にある小さいサイドテーブルの上に置かれたクーラーのリモコンに手を伸ばし停止ボタンを押して部屋に冷気が充満するのを止めた。





そのままベッドにダイブしたい気持ちだったけど寝たら3時間は起きないのか安易に予想がつく。
そして仁人に悪魔が君臨することも。




朝っぱらから雷食らうのはゴメンだ。



なんとか思い留まりクローゼットから半袖で黒地のロングTシャツとショーパンを取り出して着替えた。









脱いだ部屋着をしまい今度こそリビングへと向かった。












寝室とは真逆のムワッとした空気が包むリビングのクーラーを付け台所へと足を向ける。





そこにはいくら詰めても満杯になりそうにない冷蔵庫にたくさんの食器がしまわれている食器棚。
オーブンもトースターも付いていて一般家庭のキッチンよりふた回りほど大きいそこは何不自由しない環境だ。













けれどそんな物も私にとったらただそこにあるだけにすぎない。




何も入ってない冷蔵庫はだだ存在感を主張するだけ。

たくさんの高価な食器がしまわれた食器棚はただ見栄えを良くするための物。


オーブンもトースターも広々としたキッチンもただの冷めた愛の塊。










そんな私にとったらただのガラクタでしかないものをとても冷めた目で見るのはこれで何度目だろうか。









一度も使用したことがないこの環境は私からしたら不必要な所だ。






それでも、一つだけ私に必要なモノがある。





カウンターに置かれた私の愛用しているコップだ。