夏休みに入ってから数日が経ったある日。




ピリリリリリリッ




「んっ」




夏休みに突入してまでも目覚ましをセットするなんて事はなく、ゆっくり寝ていたのに耳元で鳴る電話の着信音によって起こされた。



夏休みに関係なくいつも目覚ましなんてものはかけていないけど。
かける以前にこの家に目覚ましなんてものはないけど。




鳴り続ける携帯に手を伸ばしながら部屋にかかってる時計に視線を向ければまだ朝の7時半だ。



誰だよ、こんな朝っぱらから電話をかけてくるやつ。



匡ちゃんあたりか?




ゆっくり寝れる日にこんな朝っぱらから起こされた事にイラっとした。






カーテンから覗く夏の太陽は、朝から元気にせっせと活動している。


程よくクーラーの効いた寝室でタオルケットに包まりながら寝るという素晴らしい居心地の良さを体感していた私は、元気な太陽が照りつける外の暑さを想像して目眩がした。





……家、出たくない。





こんな暑い日にワザワザ外に行くなんて考えられない。
そんな事をするくらいなら冷房の効いた部屋で快適に過ごした方が何十倍も素敵だ。





頭の片隅でそんな事を考えながら手にした携帯を通話するために横にスライドした。







『…おせえ』





「もしもし」すら言わせてもらえず、終いには開口1番に不機嫌オーラ全開の声が私の耳に届いた。





…相手見てから出るんだったな、と激しく後悔。






『10時に迎えに行く』




今日は、行かなきゃいけない日か…。



家を出ることが億劫な私は今日は家で過ごそうと決意したばかりだったのに、結局外に出なきゃいけない事になった。



向こうに着いてしまえば、幹部室はクーラーも効いてて夏でも夏特有の暑さなんて微塵も感じないから快適であるに違いはないんだけど、問題はそれまでの移動だ。



家を出た瞬間のあのモワッとした空気が私を包むのが嫌だ。ドアを閉めたくなる。



それから男共が群がった蒸し暑い倉庫に行くだなんて考えただけでも暑苦しい。






「今日、––––––」


「ツーツー……」




今日は行かないと、いや、今日は行けないと言おうとした私の耳に届いたのは既に通話終了を知らせる機会音だけ。




どうやら電話の相手は私の返事も聞かずに用件を伝えるだけ伝えると一方的に電話を切ったようだ。