「一言」
シーンと静まり返ったところで仁人が私にそう促した。
この気まずい中、挨拶しろってか。
けど、どうせするんだからどんな空気だとしても今やってしまった方が後々楽だ。
一つ、深呼吸をして、一歩前に出る。
「霜村サクラです」
名前を言ってからお辞儀をする。
正式な姫という立場でない私は、言ってしまえば此処では部外者も同然。
そんな奴が獅子の一員である彼らの上から挨拶なんてあってはならない事である。
それでもこの世界は、トップの者がイエスと言えばイエス。ノーと言えばノーなんだ。
だからそんな部外者の私が皆んなが慕う幹部の人達と同じ位置から話す事に反論する者が誰1人としていないのだ。
そんな彼等に対するせめてもの謝罪の意を込めたこのお辞儀の意味を知るのはきっと私だけだろう。
後は、私の思ってる事を伝えるだけ。
「仁人達は私を姫にするというけどさっきアイが言ったように、私は姫になるつもりはない」
私の話を黙って聞いてくれている皆んな。
後ろにいる幹部の皆んなからの視線も感じる。
「なりたくない理由を強いて言うなら、貴方達が大っ嫌いだから。
けど、この人達との賭けに負けてしまった以上此処に通わないわけにはいかない。
たったそれだけの理由で此処に通うなんて許せないと思う人もいると思う。
こんな地味な私が皆んなの憧れの存在である人達と並んで歩く事に怒りを覚える人もいると思う」
抑揚のない声で淡々と話す私を睨みつけてみている者もいれば顔を歪ませている人もいる。
「私は貴方達に認められたいなんて思ってない。だから仁人達が認めたからって自分たちも認めるなんて事はしなくていい」
「仁人は命賭けてでも私を守れなんて言うけど、そんなのもしなくていい。自分の身は自分で守る。
だから貴方達も自分の身の安全を第一に考えて、そして私よりも貴方達の尊敬してやまないこの人達を命賭けて守って」
チラリと後ろにいる幹部全員に目を這わせながら言った。
その時に見えた彼等の顔は何とも言い難い顔だった。
「最後に一つだけ」
一呼吸おいてから目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは…–––––––––
貴方達は、今まで自分で見てきたものを信じて。
そしてそれを見失わないで。
「仁人を支えてあげて」
「…っ!」
仁人は、護るべき存在なんでしょ?
”俺が怖いか?”と私に問いた時の仁人の顔だった。
